意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
ぞわっと。
背筋も手指も急速に冷たくなったのに、ドクドクと鳴る心臓だけ苦しいくらい熱い。
このまま、家に帰るのは危険かもしれない。
考えすぎ、自意識過剰――そう笑えたらいいけど、もし、そうじゃなければ――。
友美――は絶対ダメだ。
実家は遠すぎる。
どこかお店に入る?
目だけで辺りを探したけど、警察署どころかコンビニも近くにない。ここからだと、寧ろ。
(この前の美容室……)
陽太くんがどんな思いだったにしろ、あれからずっと苦しめられてきた本人を頼るの?
そんなの嫌だ、でも。
――カツッ……。
「……っあ……」
負けん気やプライドが、靴音に掻き消される。
男の人の靴だ。
何でそこで止まるの。
追い抜いたらいいのに。
どうして……?
そう思った時点で、走り出していた。
ちょっとだけ、お店でやり過ごすだけ。
第一、今日は陽太くんいないかもしれない。
そんな言い訳があってやっと、泣くのを我慢できていた。
・・・
「ありがとうございましたー」
必死で靴音から逃げながら、美容室が視野に入って、そんなのんびりした声に言いようもない安堵が広がる。
「はあっ、は、あ……」
乱れた呼吸と、酸欠でくらくらする頭と。
安心して視界が歪むほど目に溜まる涙が、私の尊厳を奪ってく。
「輝……? 」
どうして、ここに立ってるのが分かったんだろう。
こんな酷い有り様だからだって決まってるのに、情けなくて認められなくて。
「あっ……! 」
膝がガクガクだった。
そんなに遠い距離じゃなかったのに、よく走れたな。よく逃げ切れ――……。
「……輝!? 」
少し迷ったのか、やや遅れて側に来た陽太くんの一歩前で、堪えきれずかくんと膝が折れた。
「どうしたの……! 」
それを見て、もう我慢できないというように道路に座った私の背中をそっと抱いた。
「……っ、だ、誰かいる……いたの、本当に……っ」
気のせいだって笑うでしょ。
変質者だって好みがあるよ。
私だって、そう思ってた――……。
「……っ、店の前にいて。離れないで」
「……あっ」
本当なら危ないのに。
気のせいかもしれないのに。
背中で庇ってくれながら、前に出て通りを見渡す。
「……もういないみたい。怪我してない? 何もされなかった? 」
こくんと頷く私を抱き抱えるように起こしてくれ、心底ほっとしたというように陽太くんが息を吐いた。