意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!



「おいで。とりあえず、中に入ろう」


足が縺れて、上手く歩けない。
指先を取られて驚いたけど、極力触れないようにしてくれてるんだと思う。


「田中くん、どうかした? 」


幸いお客さんはいないけど、もちろん他にも美容師さんがいて。


「……何でもないですよ。あと俺やっとくんで、上がってもらっていいです」

「でも……」


しかも、女の子。
それに恐らく、陽太くんに好意をもっている。


「いいんで」


説明を省いてくれようとしてるのか、少し言い方がきつい。


「ごめん……私、もう大丈」

「ダメだよ。そんなことがあった輝を放り出したりできない。そこ座って。何か温かいの持ってくるから」

「でも、お店にも迷惑だし、その……女の子もいるし、危ない……」


笑って椅子まで私を引っ張ると、両肩を真下に押した。


「店なんだから平気だよ。それに、輝の方が大事。……うん。そ、座ってな? 」


優しく押されるまま、すとんと椅子に尻もちをついた私に、よくできました、みたいに軽く頭を撫でて奥に引っ込んでしまった。
たぶんこれから睨まれる気がして、顔を上げられない。


「はい。ミルクティーでよかった? 好み、変わってないといいけど……って、ごめん。キモいね、俺」

「……よく覚えてるね」


あの頃と変わらない。
ミルクティー、好きだし。
コーヒーは未だに飲めない。


「……忘れないよ、輝のことは。忘れそうになるのが怖くて、変わっても知りようがないのが寂しくて……だから、必死で覚えてた。そんなことしなくても本当は、輝の記憶を消すなんてできるはずもなかったけど」


温かいのに、カップを包んだ両手が震える。


「……ごめんね。やっぱり、勘違いだったかもしれない」

「輝が怖い思いしたのは事実だし、俺はそうは思わないよ。通報、しとくべきじゃないかな」

「でも……」

「俺がやるから、心配しないで。勘違いなら、それに越したことないんだからさ。ってか、俺が心配。ね」


そう言って、私がちびちびミルクティーを飲んでる間に諸々済ませてくれた。
警察が来ても、できるだけ私が話さないで済むようにしてくれて。
ここにいるのに、全部間に入って説明してくれて、小さな子供になった気分――ううん。


「少しは落ち着いた? ……よかった。輝が許可してくれるなら、俺、側にいるから。いつだって頼って。気を遣って、女友達には頼れなかったんだよね。俺は輝と同い年にも年上にもなれないけど」


――あの時よりは、男だよ。


「腕力なさそう? 意外と力あるよ? ……ね、大丈夫」


女の子になった気分、って言うのかな。

自分の考えに固まってると、冗談ぽく言ってくれて。
くすっと音が漏れただけで、そんな満面の笑みを浮かべて。

カタカタ揺れるティーカップを持つ私の手に、そっと自分の手を重ねた。






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