意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
「待たせてごめん。しかも、手伝わせちゃった」
そのどちらも、陽太くんが謝ることじゃなかった。
待っててって言われたのは一人で帰さない為だし、片付けだって無理を言って手伝わせてもらったのは私だ。
「ううん」
なのに、それだけ?
助けてもらっておきながら?
話、信じてくれただけでも――嬉しかったくせに。
「……あのさ……! 」
コートを着て、外に出る寸前に一大決心したみたいに頬を紅潮させて。
「……送ったらダメかな。輝の部屋まで」
もう遅いのに。
明日だって、仕事かもしれないのに。
手間でしかないのに。
「心配なんだ。別れた後、輝に何かあったらどうしようって。……でも、輝にとっては俺の方が怖かったら。何もしないよ、とか……本当に無意味だから」
――どうして、そんな懇願するみたいに言うの。
「俺が怖いんだ。だから……お願いだから、送らせてほしい」
まっすぐすぎる愛情表現があちこちに刺さって、上手く声になってくれない。
確かに、あの時間帯でつけられたのに、今日はこの真っ暗な中一人で帰るのは心細い。
「……ありがとう」
「……っ、うん! 輝がそんなこと言わなくていいんだよ。俺こそ、ありがとう。……すごく嬉しい」
その笑顔、やめてくれないかな。
「嬉しい」だけでできてるって、そんな顔されたら。
まだ傷が癒えたとは言えないのに、裏なんか読めなくなる。
「お母さんと話したんだね」
「うん……黙っててごめん」
また。
陽太くんが謝ることなんかないのに、私のせいで癖になってる。
「お母さんが強引に聞いて、押しつけたんだし」
「まあ、ちょっと押しが強かったかな。でも、同じだよ。俺は断ったけど……嫌だったら教えないし、受け取らない。結局、俺が輝と繋がってたいだけ」
帰り道、何を話したらいいんだろ。
今は、あのことに触れたくない。
散々蒸し返しておいて、すごく勝手だ。
でも、そうすると話題が見つからなくて、俯いて歩く。
他愛ない話題を振っても、陽太くんから返ってくる言葉は、どうしてか「あの頃も今も、ずっと好き」で終わる。
だから、とても彼を見上げながら話すなんて、できるわけなかった。
「輝」
そんなの、バレバレだよね。
私の名前を、甘く笑うと同時に発音される。
久しぶりに再会して、しかも私の態度は最悪なのに、どうしてそれほど愛情が溢れることができるんだろう。
陽太くんの全身から滲み出てる「好き」を、考えすぎだと振り切ることができず、まるで受けとめきれずにふらついたみたいに、躓いてしまった。
「あっ……」
「危な……っ」
前も見れなくて、隣を歩くのもそわそわして。そんな状態で、乱暴に一歩踏み出したら。
バランスを崩して、前に大きく傾く――はず、だったのに。
「大丈夫? ……だよ。輝が嫌なことはしない。せっかく俺のとこ来てくれたのに、台無しにするようなこと、俺、できないから」
トン、と背中が陽太くんの前身にぶつかる。
急いで後ろから引かれた手だけじゃ、反動に追いつかない。
よろけそうになった身体を、今度は反対の腕でそっと支えてくれた。