意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
気まずいような、そうでもないようなそんな帰り道も、歩いている間はまだよかった。
「中、見ておいで。俺、ここで待ってるから、何かあったら呼んで」
マンションの前でも、同じことを言ってくれたけど、さすがにこの寒い中外で待たせられるわけない。
「ありがと……」
共有スペースなんてほぼない、狭い通路。
後からエレベーターで上がってきた女の子二人の目が、他へ視線を移しては何度も陽太くんへ戻ってくる。
「慌てないで。大丈夫、輝が安心できるまで待ってる」
注目を浴びてる中待たせたくなくてバタバタしているのが聞こえたのか、少し開けた玄関のドアからそう言ってくれた。
狭い部屋、確認するところなんか限られるけど。
クローゼット、お風呂、ベランダ、カーテンの裏。考えられるところすべて、特に異変はない。
少し、迷った。
それは確か。でも。
(ちょっとだけ……? )
少しだけ。
それも、悩んで出した答えは。
「陽太くん」
「ん? 気にしないで、もっと時間使った方がいいよ。不安って、後からもっと来るもんだし。俺のことなら、気にしないで……」
――そう、なの?
「……散らかってるけど」
「……え……」
「……風邪、引くよ」
輝、あんた、どうかしちゃった?
子供の頃とはいえ、大昔だとはいえ。
あんなことされた人だよ?
それで、ずっと悩まされてきたんだよ?
(……でも)
「……台無しにしない? 」
「……っ、しない。絶対、しない、から……あの」
再会して泣きそうなのは、ずっと陽太くんの方だ。
「いいの……?」
ずっと後悔してたんだって、嘘じゃない?
「謙遜じゃなくて、本当に散らかってるよ」
「俺の部屋より、ずっとましだと思うよ。……輝」
「いいよ」が素直に言えなくて、ぶっきらぼうに繰り返したのに。
「信じてくれて、ありがと。絶対、輝に酷いことしないから。俺がこう言っていいのか、分からないけど」
――もう、怖くないよ。
「強がらなくていい。あんな思いして、一人が平気のわけないんだ。ここで頼られたからって、俺、勘違いしないから……心配しないで頼って。それに、俺がそうしたしいんだ。ね」
部屋に入れて、勘違いするなという方が無理がある。
どちらかと言うと、私はその意見だった。
「嘘くさいけど、子供の頃からずっと言いたかった」
――輝は、俺が守るから。
「大丈夫だよ。もう大丈夫」
後ろで、バタンとドアが閉まる音。
おまじないみたいに、「大丈夫」を何度も囁く声。
私をあやすように見つめながら、後ろ手で鍵を掛けるカチャ……という音。
そのどれも、もしまたあの男が現れても一人じゃないんだって安心感をもたらす反面。
(……今度こそ、気のせい)
背筋を優しくそっと撫でるように、ぞくりと何かが辿っていったのは。