意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!


さすがにクローゼットは開けなかったけど、もう一度異常がないか、一緒に確認してくれた。


「輝が落ち着くまで……許してくれるところまでいさせて」

「な、何か買ってくればよかったね」


もう何度、「お願い」されただろう。
迷惑をかけてるのはこっちなのに、そうやって甘くねだられたらどうしていいか分からない。


「気を遣わないで。嫌な思いしたのも疲れたのも輝なんだから」


明らかに、会話として成り立たない返事が多い。
でも、笑わずに突っ込むこもせずに、またそうして甘くなる。


「ど、どうしよっか。買いに行く? どっちにしても、うちお客様用のものが全然なくて……」


挙動不審すぎる。
家に着いて安心したのか、今頃になって緊張してきた。
そういえば、年下恐怖症のせいでしばらく誰とも付き合ってないから、ここに男の人が来るなんてこともなくて、準備なんて何も――。


「ご、ごめん。陽太くんだって、明日も仕事だよね。こんなとこまで付き合わせて、ごめ……」


……ってほら、無言になってる。
心配してああ言ってくれたけど、ここは私から「もういいよ」って言うべきだ。


「ううん。仕事なんてどうでもいいよ。じゃなくて、これが正解なら嬉しすぎて、思考停止しちゃった。輝、それってもしかして……」


――泊まってもいいってこと?


「違った? ……かな。いいように考えすぎかな。輝とこんなふうに一緒にいられて、俺今、頭馬鹿になってるから……実は、まともな受け答えしてる自信ないんだ」


まともじゃないのは、私の方だ。
あとちょっとで帰るなら、「お客様用」なんて要らない。
男物が一切ないことなんか、何も関係ない。
普通に考えて今、誘ったのは私――……。


「……やっぱり、撤回しちゃう? 」


真っ赤になってパクパクする口を見て、悲しそうに首を傾げた。


「変に取らないでね。言ったようように、分かってるから。怖いの、紛らす為とかそんなのでいいんだ。輝がここにいるの許してくれた理由」


勘違いしないよって。
今日だけだって知ってるよって。


「輝といられるなら、何だっていい。輝はそんな子じゃないけど、俺ね。いいんだ、輝になら」


――側にいられるなら、どんなふうに利用されたって構わない。


「っていうか、されたい。……撤回、しないで」


――お願い、輝。


「……買いに、行こ」

「……うん」


また、パタパタと玄関に逆戻り。
さっき掛けたばかりの二重ロックを、外す手が上手く動かない。


「ん……」


後ろからドアに手を伸ばすと、間にいた私はすっぽりとその空間に収まってしまう。


「帰ったら、また確認すればいいよ。何も起こらないから、ね」


震えたのが、外に出るのを躊躇したからだと誤解してくれたみたい。


(……ほん、とは……)


本当は、どうして震えたの。
ゆっくりと鍵が回って、開いたのに私が見たのは前のドアじゃなくて。

少し迷ったみたいに、でもどうにか不安を和らげようとするかのように、そっと肩に触れた陽太くんの手だった。



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