意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
結局、晩ごはんまで奢ってもらってしまった。
(……私、何やってんだろ……)
確かにすごく怖い思いをしたけど。
やっぱり気のせいなんかじゃなくて、後をつけられたと思うけど。
(冷静になってみると、これってヤバくない……? )
男の人を部屋に連れ込んでいる。
理由や状況は普通じゃないとはいえ、それに間違いない。
いくらそれが幼なじみだからって、昔は家族みたいに一緒にいたって言ったって。
――今、シャワーを浴びているのは、すっかり大人の男性になった陽太くんだ。
「俺は後でいいから、ゆっくりしてきなよ。……変なことしないから」
そう言われたって、いくら別の部屋、たとえお風呂だから当たり前だとしたって。
すぐそこで裸でいるのは、恥ずかしいやら緊張するやら、それにプラス、何とも言えないそわそわ感に耐えられなくて、すぐに上がってしまった。
「ごめん。急かしちゃったね」
「次、どうぞ」にのほほんとした調子で「ありがと」って言ったのは、たぶん気を遣ってくれたんだろうな。
できるだけ最速で済ませたから、シャンプーやボディーソープのボトルをガタガタ引っくり返したり、変なところに頭ぶつけたりしてたの聞こえてたはず。
それはスルーしてくれたのに、くすっと笑って指先がこっちへ伸びてきた。
「すっぴんも可愛い」
「……っ、そ、だ……! 」
私の顎から、長い指にわりとたっぷり泡が移動して。
それがどうして、途方に暮れるくらい色っぽく見えてしまうのか。
「嘘じゃないよ。面影あるし、見た瞬間輝だって思ったけど。……でも、すごく綺麗になってる。再会できて嬉しいけど、ちょっと寂しくて……妬けるかな」
「……誰に……!? 」
「それを見れた奴ら。ごめん、シャワー借りるね」
……それからずっと、シャワーの水音を聞きながらざわざわしてる。
ガタンって、バスルームのドアが開く音がして。
まだ裸かもと思うと、離れたリビングにいるのになぜかテーブルを垂直に見下ろしたりして。
「輝、ドライヤー借りるね? 」
「う、ん。置いてあるの、勝手に使っていいから」
テーブルの木目を見るのもいい加減嫌になって、洗面台の方へわざとゆっくり歩く。
ドキドキしてじっと座っていられなかったから立ち上がったのに、いざ濡れ髪の陽太くんを見ると結局下を向いてしまう。
「ありがと。って、あ。輝、ちゃんと髪乾かしてないでしょ。傷むよ? 」
「え? もう乾いてる……」
「だーめ。せっかく綺麗なのに勿体ない。やってあげるから、おいで」
おいでおいで。
されるがまま、ふらりと一歩。
「はい、どうぞ。お客様」
営業スマイルを作ってみせる陽太くんに思わず笑うと、少しほっとしたみたいにドライヤーのスイッチを入れた。
「自分で乾かすの、難しいよね。このドライヤー、結構重いし。輝には使いづらいかも」
引っ越してきた時に、適当に安いの買ったからな。
女子力よりも、その場の生活資金だったし。
その後買い換えなかったのは、まあ女子力かもしれないけど。
「ほら。中、結構濡れてる」
内側の髪に手櫛が入って、首筋がピクッとする。
「や、やっぱり、プロだね」
身体が意に反して反応したからか、何てない言葉を異様なくらい変な意味に取ろうとした脳がどうかしてるのか。
「そう?よかった。んー、実はね。別に美容師目指してたわけじゃなかったんだ」
「そうなの? 」
驚いたんじゃない。
なろうと思ってたものと違う職に就くなんて、別に普通だ。
ただ、会話の内容が色恋から遠ざかって、気が抜けただけ。
なのに。
「うん。美容師になりたかったっていうか……いつか、輝に会えたら……その時は酷いことするんじゃなくて、髪、優しく触りたいなって思ってただけ」
また、「子供の頃から大好き」モードに突入されてしまった。