意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
熱い。
そう感じた時点で、私は絆されて許してるのかもしれない。
いくら幼なじみだからって、再会して間もないのに、これほど好きだって何度も言われて。
怖いも、気持ち悪いとも言うことなく――夜、同じ部屋にいる。
それでもう、否定しようがないほど明確だった。
「心配しないで。こんな告白されたって、輝の気持ちが追いつくはずないって分かってるから。“だから、付き合って”はさすがに言わないよ。今はね。あ、そりゃ、付き合えたら嬉しいに決まってるけど」
私が、甘いの。
ううん、やっぱり。
「……側にいさせて。守ってもらってた頃よりも、酷いことしてた頃よりも。俺、大人になってるからさ。あの時、本当にしたかったこと……輝にしてあげられる」
甘すぎるのは陽太くんだ。
冷静になれば、「好き」以外のほとんどが曖昧で、上からアイシングまみれになったスイーツみたいに、もともとの意味が埋もれている。
「……っ」
――ガタッ。
ベランダで、何かが倒れたような音がして身が竦む。
「風かな。ちょっと見てくるね」
心臓がきゅっとしたのは事実。
でも、一方でこうも思った。
――ちょうどよかったって。
怯えてみせたのは、外の物音よりも。
「何ともないよ。隣の何かが倒れたのかも」
「本当にしたかったこと」が何なのか、疑ってしまったからかもしれない。
「……ありがとう……」
具体的な何か、じゃないのかも。
それこそ、優しくするとか。
普通に会話するとか。
こんなふうに、何かが起きた時に側にいてくれるとか。
(そう。そうにきまってる)
紅茶の味がよく分からない。
いきなりぐいっと飲んだからだって、無理やり自分を納得させた。
「本当に眠くない? ……ベッド、行きにくいよね」
ギクリとしたのがバレただろうか。
何とも言えない顔で笑って。
「風邪、引かないようにね。ん……」
ベッドの上に無造作に置かれていたブランケットを手繰り寄せて、上からそっと肩に掛けてくれた。
「あ、の。陽太くんも寝ていいから……えっと」
ベッド使っていいよ、とも。
他に勧められるものも言えない。
まさか、一緒に……なんて、あり得ない。
「……ありがと。そうするね」
他に何も言わず、素直にそう言ってくれたのはわざとだ。
ベッド、二人きり、一緒。
今のこの状況が、またあの記憶へと誘わないように。
「……あ、そう言えば覚えてる? 昔、近所の人が、名前で勘違いしたのかお土産で俺の方に可愛いぬいぐるみ買ってきてくれたの」
「そんなこと、あったっけ」
「あったよー。俺、何か恥ずかしくてさ。輝にあげたんだ。ひながもらったんだから、って言われても何か嫌で」
唐突に始まった、なんてない昔話も。
「あんまりぐずるから、いったん輝が貰ってくれて。で、輝から俺にプレゼントしてくれたの。覚えてる? そしたら俺、すんなり受け取るもんだから、大人がみんな笑ってた」
「……そうだっけ……」
子供の頃は、それが当たり前のようにお姉ちゃんぶってたけど。
今、大人になった陽太くんから聞くと、確かにものすごく好かれてたんだなってモゾモゾする。
「あれね。引っ越し前まで持ってたんだ」
「え? 」
引っ越し前……もう、意地悪で乱暴だった陽太くんが、そんなもの持っていてくれたなんて。
「引っ越しの時に、親が間違って捨てちゃってショックだったよ。唯一の輝との繋がり、絶たれたみたいで」
その「クスッ」が、すごく悲しく聞こえた。
あの日の出来事は、けして初恋という言葉では美化できないけれど、陽太くんが苦しんだということは事実――……。
「あとねー、昔……」
空気が重くならないように、ベッドを背に二人、逆にふわふわ軽くならないように。
子供の頃の幼なじみらしいエピソードを、笑いながら挙げてくれる。
それからいくつ、遡っただろう。
――いつの間にか、私の瞼は落ちていた。