意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
口説かれすぎて×∞ 思考停止しています
「第一に、そういう時は私に連絡しなさい」
蚊帳の外だったのが納得いかないと、友美がぷりぷりと怒る。
「そんな時に女の子は呼べないよ。変質者を友美のとこに案内したくないもん」
翌日の昼休み。
文句を言いながら、そう言ってくれる気持ちが嬉しくて、にんまりするのを我慢した。
「だからって、別の男を部屋に入れたりする? 痴漢から助けてくれた人が痴漢、ってあるらしいよ。……不安だったのは分かるけどさ。ま、何もなくてよかったよ」
私だって、非常事態とはいえ、まったくの他人を部屋に上げたりしないけど。
陽太くんがいてくれて、もちろん心強かったけど、だからこそ事態は複雑だ。
「結果的によかったのかもね。例の、年下恐怖症を克服する時がきたってことかも」
「……そうなのかな」
わりと混雑した休憩室、男だの痴漢だのを大きい声で言われても気にしなかったのに。
普通の人には理解できないだろう、「年下恐怖症」の言葉に小声になる。
「よっぽど変わってたんだね、その幼なじみの彼。じゃなきゃ、どんなに怖い状況でも頼ったりしないじゃない? 小学生以来か……輝が自分で気がつかないうちに、少しは傷が……」
「……それはないよ」
何度も夢に見た。
それから何年も経って、初めての時も――その記憶が消えてくれず、好きな人とできる嬉しさもドキドキも、気持ちよさも感じられなかった。
「……そっか」
「ごめん……」
今、絶対口調キツかった。
友美に話してないのは私なのに。
じゃあ、何でそんな男を泊めたんだって話だし。
「何にせよ、特別なんだろうね。忘れられないんだもん。……本当に改心してたらいいね」
「……うん」
そう。
きっと、陽太くん以上に私の心に入り込んだ人はいない。
それをずっと最悪の意味で捉えてたし、今も良く取っていいのか答えが出ない。
「自分を責めることないよ。許せなくて、これっきりになっても……」
――好きになったとしても。
「……好意なのかな。四六時中告白され続けて、何かもう頭が飽和してる」
「生理的に無理だったら、さすがに断ってるでしょ。でも、それが同情なのか、優しさなのか、本当に愛情なのか……判断できてからにしなよ」
アドバイスに頷きかけて、止まる。
「深い意味はないよ。なんか、大分惹かれてるみたいに見えたからさ。吊り橋効果みたいなやつ? 恐怖の興奮と恋愛感情を錯覚しないようにね。あと、輝お人好しだし」
お人好しだとは思わないけど、ドキドキの理由を錯覚してるのかな、とは思う。
(……って、やっぱりドキドキしてるんだよね)
あれだけ甘やかされれば仕方ない――そんな言い訳に自分で待ったをかけるのは、あの経験があるからに他ならない。
じゃあ、もし――あのことを下手で酷すぎる愛情表現だと受け入れてしまったら……?
「そ・れ・に。池田さんだっているしねー。今朝、輝の部署に池田さんから電話あって、ちょうどみんな塞がってたから、通りがかって私取ったんだけど。すごーく残念そうな声がしたんだー」
「き、気のせいでしょ。じゃないにしても、他の人と話したかったとか」
やめときなさい。
そう止めるみたいに思考に被さった、友美の楽しげな声。
「またまた。年下恐怖症克服もありだけど、もう一回年上試すのもいいかもよ? 年上長続き第一号になったりして。今度、誘ってみなよ」
「…………あ、銀行行ってこなきゃ」
わざとらしい嘘を、わざとスルーされて余計に恥ずかしい。
言った手前、行かないわけにもいかず。
ニヤニヤ顔を背に、休憩室を出た。
「……あ……」
うそ。
こんな時に限って。
「お疲れ様です」
いそいそとエントランスを突っ切ろうとしたところで、降りてきたエレベータのドアから本人が現れるなんて。