意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
「お疲れ様です……」
私今、目逸らしたかも。
いつもなら池田さんは目の保養で、見つめすぎないよう注意するくらいなのに。
「お昼ですか? 」
「あ、はい。ちょっと銀行に……」
いや、そもそも姿を見れたらなんかハッピーみたいな、よくあるお菓子のレアなハート型みたいなものだ。
袋の中に、一個入ってるか入ってないかみたいな。
入ってたからって、実際何が起きるわけでもない。
ただ、ちょっといい気分になる。
他の人に伝わるか疑問だけど、とにかく私にとって池田さんはこっそり幸せをもらうだけで――……。
「どうかされました? ……お疲れなのかな」
「え? 」
「あ、いえ。この前、遅い時間帯に出られるのを偶然お見かけしまして。大変ですね……って、発注してるのうちなので、そう言える立場ではないですが」
(ぁぁあぁぁ、こういうとこなんだよね。癒しの素……)
池田さんの目には、余程疲れて見えたんだろうか。
クスッと笑うと、ほっとしたように笑い返してくれた。
「このまま帰社ですか? 」
自然と一緒に自動ドアを抜け、確認はしなかったけど同じ方向へ歩く。
「いえ、もう一社回らないといけなくて」
「池田さんこそ、大変ですね」
外回りって、本当に大変そうだな。
もう、お昼にちょうどいい時間は過ぎてるのに。
「まあ、私の場合は慣れです。でも、気をつけてくださいね。あの時間の、女性の一人歩きは危ないでしょう。仕方ないのも分かりますが……」
ギクリ。
タイムリーな心配に、思わず固まってしまった。
落ち着け。
池田さんは、話題のひとつとして言ってくれただけだ。
一緒に歩いてる間、場を持たせる為。
「……まさか、何かあったんですか? 」
心地よく響いていた、池田さんの靴音が止まる。
「え、あ、……ちょっと」
馬鹿。
変に黙ったりしないで、「ありがとうございます」でよかったのに。
そこで顔を引きつらせて沈黙したら、何かあったって言うのと同じことだ。
「……そうだったんですね。すみません
、思い出させてしまって」
「いえ、そんな。その……大したことではなかったので」
ふっと笑う声がして見上げると、そこには「嘘ですね」って優しい目がある。
「終業後まで声を掛けるのは、気が引けてしまって。……今度は、ご挨拶することにします。……して、いいですか」
「え……?」
今、なんて……?
ううん。しっかり聞こえたけど、言葉の意味が理解できない。
「私がもっとお話ししたいだけですから。ご迷惑でなければ」
「迷惑なんて、そんな」
「……では、私はこっちなので。昼間とはいえ、人通りの少ないところは避けた方がいいですよ。……ああ、あと」
胸ポケットから、さっとケースを出して。
気がついたら、名刺を両手で受け取ってた。
(……え、つい癖で……)
いつもどおり、ビジネスライクな手渡し方だったから。
「お渡ししておきます。何かあれば、遠慮なく連絡してください」
そう言うと、急いでるのか足早に行ってしまった。
それは、普段見る、来社した時の池田さんそのものだったけど。
でも、一瞬だけ――今までないくらい、甘い視線が上から刺すように降ってた気がした。