意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
(……何が起きてるの)
友美に言われた時は、盛大な勘違いとしか思えなかったけど。
でも、さすがにこれは、仕事上の付き合いのら範疇を越えている。
名刺に載ってるのは、社用携帯だとは思う。それでも、私が会社の外でこれを貰ったのは、明かに私用だと認めざるを得なかった。
(タイミング……? だったら余計)
自分が嫌になる。
大人になった陽太くんに出会う前だったら、私は有頂天になって池田さんに連絡してたんだろうか。
それは、本当に憧れてるから?
だったとしたら、まだ救われる――けど。
それが、「年下じゃなく、年上だから」だっとしたら――。
(……最低)
「年下恐怖症」なんて。
トラウマを理由に、体のいい言い訳で自分を正当化してただけかも。
もちろん、あのことは怖かったし、それ以降今に至るまで、ものすごく影響を及ぼした。
でも、今まで誰とも長続きしなかったのは、私自身が――……。
――電話。
無造作にバッグに押し込んだスマホが震えてビクッとする。
(……だいじょうぶ)
ランチ時、真っ昼間の大通り。
何も起きるわけがない。
起きたとしても、今ならどこへでも駆け込める。
何より、さすがにあの男が私の連絡先を知ってるわけ、ない。
『……っ、ごめん……! 』
重石をつけられたみたいに動きづらい指が、どうにか電話を取るといきなり謝られた。
『……陽太くん……? 』
その謝り癖も、池田さんとはまた別の穏やかな声も。
昨夜、散々――すごくたくさん聞いたばかりで名乗らなくてもすぐに分かる。
『うん……今、昼休みかなって。どうしても心配になっちゃってさ。でも、考えたら輝は俺の番号知らされただけで、登録してないよね。……ほんとにごめん……昨日の今日で、知らない番号から架かってくるなんて怖い思いさせて。繋がってから気づいたんだけど、急に切ってもそれはそれで怖いかと思って』
『あ……』
本当に昨日の今日だ。
なのに、言われてスマホを耳から外してやっと、画面に「陽太くん」が表示されてることに気づく。
「……登録してたから大丈夫」
(おかーさん)
これも母親の勘なんだろうか。
どっちにしても、目が認識する前に電話に出るなんて無用心すぎる。
『えっ……? ……うわ』
会社へと歩きながら、途中立ち止まった信号待ちが長い。
だって、そんな声出されたらそわそわする。
誰かと話すみたいに、無意識でも実は意識してる声や話し方とは微妙に違う。
意図せず、ふと漏れて照れくさくなるような、一人言に近い言葉。
『ほんと? ……あ、うん。たぶん、おばさんに半強制的に登録させられたんだろうなって想像つくけど。でも、それにしたってやばい……登録してくれたのもだけど、それで出てくれたのも』
見てなかった、なんて言えない。
言う必要もどこにもない。
『……やば。うれしい』
そんなことで、そんなふうに喜ばれたら。
『……って、だめ。そうじゃなくて。あれから、何ともない? おかしな気配とかしない? 』
近くで直接聞くのとはまた別の、機械を通して聞く声にますます落ち着きがなくなってしまう。
「何もないよ」
『よかった……。少しでも変だと思ったら連絡してね。気のせいだっていいんだ。寧ろ、それが一番いい。輝が無事で、ただ声聞けるだけなんてさ』
信号、青だ。
一人、時間が止まったみたいに靴底が地面にくっついてた。
慌てて横断歩道を渡って、ほっとする為に息を吐く。
「陽太くんも昼休み? 」
『うーん?? ……サボり。俺、自分で我慢強い方だと思ってたんだけど。一気に輝と一緒にいられる時間が増えたから……我慢できなくなっちった』
ってことは、つまりお店。
誰かというか、誰の耳にも聞こえてるはず。
それで、こそこそって感じもなく、ひたすらストレートに甘い声を出せて、甘すぎる台詞を吐き出せるの――って。
『でも、気にしないでね。ゆうべ言ったとおり……いつでも、どんなことでも言って。俺が喜ぶから』
――そんなの、もう何度も体験してる。