意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
抱きしめられたのが勘違いだったのかと思うほど、あっけなく腕が離れた。
頬から頭、首から下もどんどん熱くなってくのが自分で分かる。
いきなり密着したんだから当たり前だ。
問題は、腕が解かれた後、きっとぽかんとしてしまっただろうってこと。
「やっぱ、俺だけじゃ厳しかったな。輝がいてくれてよかった」
ティファニーブルーって言うんだろうか、外観も中のテーブルや椅子、食器。
ミントみたいな水色に、白のリボンが結われて統一されている。
女の子の憧れらしくやっぱり女性が多いけど、そのモチーフどおり。
(……というか、女一人の方が厳しいかも)
仲良くしてるカップルも多い。
ガラス張りの窓からは、人工的ではあるけどおしゃれなグリーンの景色が望める。
これってもしかしなくても、庭園ウェディングがコンセプトだったりして。
「ほら、行こ。お姫様」
「……そ、そういうのなし……!」
道端で、まだアスファルトの上で「お手をどうぞ」されるのは、抱きしめられた時よりずっと恥ずかしいかもしれない。
おまけにカップル数組、思ったより男性が少なくなかったこの状況でも、陽太くんは目立つ。
私の代わりに手を差し出したかった人が、一体どれくらいいるんだろ。
「なんで? 執事みたいな人いるし、こういうのは気分から楽しまないと損だよ。それに、実際」
――輝は、俺にとってお姫様だし。
……お姫様は無理だけど。
とにかくそう思えるくらい好きでいてくれてるってことは伝わる――自惚れでなければ、きっと他の人にも。
本人がナルシストだと否定できないくらい愛情が駄々漏れてるなら、ここにいる人みんな誰が見たって、私たちはカップルなんだろうな。
「そんな緊張しなくても。……あ、ほら、来たよ」
(するにきまってる……)
陽太くんの「あはは」は、やっぱり嘘っぽい。
それだけならまだしも、からかってもくれずに延々恥ずかしいことをリピートしてくる。
「……可愛い」
悔しいけど、いざ運ばれてきたアフタヌーンティーのセットを見たら、キュンとせずにはいられなかった。
トップに白のリボンがついた、三段の銀のお皿。
「よかった」
ぷっと吹き出したのは、たぶん素だ。
笑われたのに、不思議と嫌な感じはしない。
それどころかホッと安心したのは、どうしてだろう。
小さなケーキ、マフィン、サンドイッチ。
あんまり一度に食べることのないラインナップ、何よりミニサイズで可愛いということが罪悪感なんてやっつけてしまう。
「あぁ……可愛い……」
ポットもカップも何もかも。
いったんここにいる自分を受け入れてしまえば、もう可愛いしか出てこない。
「うん。……可愛い」
恍惚としてる。
私も、陽太くんも。
「可愛いのってさ。……つい、手が伸びちゃうよね」
可愛い可愛いと呪文のように呟きながら、器用にクリームだらけのスポンジを口に運ぶ私のフォークが頬を掠めた。
だって、仕方ない。
陽太くんの言葉は、ケーキやお茶のことを指してるはずなのに。
言ったとおり伸びた指先は、ゆっくり丁寧に私の頬をなぞって。
掬ったクリームを、自分の唇へ運ばれたりしたら。
一口かじられたお皿の上のスイーツみたいに、次に噛みつかれるか舌で溶かされるまで、ちょっと間抜けに待っているしかできなかった。