意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
「……よかった」
「え……? 」
まだ、何も言えてない。
返事はおろか、もしもあるなら質問すらも。
「ん……」
分かってるよって。
OK貰っただなんて、勘違いしてないよ――切なげな言葉未満の一文字をのせた声は、もっとずっと苦しい。
「輝より背、伸びたかなって。再会するまで、ちょっと気になってた。他に悩むところ、いっぱいあるのに変だよね。第一、俺より背が高くたって輝は可愛いし、気持ちは変わらないのに」
本当に背、高くなったな。
記憶にある陽太くんの背丈は、あの小さくて可愛いひなで止まってる。だって、その後は――……。
それを思い出すことはないって、今の陽太くんに集中すればするほど、彼は男の人だってことばかり意識してしまう。
「でも、夢だったんだ。あの頃みたいに、俺が輝にぴったりくっつくんじゃなくて……こうやって、輝をすっぽり包むの。輝、ちっちゃいね」
「ひ、標準じゃないかな」
そう。
ちっちゃいものって、可愛い。
ぎゅってくっついてくるのに笑いながら、その体温を感じて幸せな気分になるのは、きっと見た目に大きくて強そうな方だ。
陽太くんも今、そんな気持ち……?
「そうかも。……本当は、他なんて関係ないからさ。こうやって、ちっちゃいな、細いなって思えてるのがすごく嬉しいだけ。輝に見上げられるって、こんな感じなんだ……」
――それだけの、わけ、ない。
「本当の本当に無理……? 俺とこうしてるの、気持ち悪い? 怖い……かな」
『考えてみて』って言われたのに、考える間もなく――考えさせないようにしてるんじゃないかと邪推したくなるほど、陽太くんは感覚を刺激し、訴えてくる。
『これ』は? ねえ、『こっち』は?
「嫌じゃない? へいき……? ね、輝……」
ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる腕が、少しだけ緩む。
でも、空間はできたのに、逃げるほどの隙間ははない。
嫌か、逃げるのか、それともここにいたいの――そう、試されてるみたいに。
「俺ね、あんまり変わってないのかもしれない。輝が可愛がってくれてた、“ひな”の頃と」
びっくりして、いつの間にか逸れていた目がまた陽太くんに奪われる。
「あの頃だって、思ってたから。こうしたら、輝がまだ一緒にいてくれるかな。“おまじない”、ってしてくれなきゃやだって泣いたら……また、恥ずかしそうにキスしてくれるかなって」
「え……っ」
封じていた記憶のひとつ。
だって、それを思い出したら、あんなことした数年先の陽太くんに、昔は自分から――……。
『あきちゃん、帰ったらいや……』
『もー、ひなは。明日、また会えるでしょ? 』
ひなの部屋、ふたりきり。
毎回きょろきょろして、ひなのお母さんがいないことを確認したのは。
『だいじょうぶなおまじない』
『……あきちゃんが帰りませんように、はだめ? 』
そんな可愛すぎるお願いを誤魔化す為のおまじないが、子供の私にはまだいけないことかもしれないと思っていたから。
「おまじない……って、俺にだね」
『それは無理だよ』
『……じゃあ、じゃあ……』
「……俺のこと、輝が好きでいてくれますように」
『……それは叶う? あきちゃん、それは叶うでしょ? 』
「……ひなた……っ」
――叶うよ! ぜったい、ずーっと。
子供みたいにはいかなかった。
額にふわりと落ちた唇は、幼く初々しい音なんて立ててくれない。
おでこにただ口づけられるのが、こんなに生々しいなんて信じられない。
(……おまじないって)
漢字で書くと、違う読み方あるよね?
「叶うかな。……今なら、その為なら本当に何だってできるんだけど」
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
今、何か全然違うことが浮かんだ気がするけど、もう何だったか忘れてしまった。
「輝。……大好き」
聞こえるのは、陽太くんの甘い掠れ声と。
そんなの、絶対叶うに決まってるのになってクスクス笑う、あの頃の私の心の声だけだった。