意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
「……彼氏いるなら、そう言えよ」
一睡もできなかった、翌朝。
会社の廊下、すれ違い様に低く小さな声で、ぼんやりした頭を殴りつけられた。
「……え? 」
今、私に言われたの――顔に出ていたのか、その顔すらムカつくって感じで笑うと、何事もなかったように行ってしまった。
(今の、堺くん……だよね? )
デート断った時に、そう言えよってこと?
なんで今頃、しかもそう思われ――……。
「これだね」
トイレでたまたま一緒になった友美が、私の目にぐっとスマホを近づけていった。
「……ああ……」
近すぎて画面なんか見えなかったけど、それで合点がいった。
「これ、例の幼なじみくんでしょ? いつの間にそんなことになってんの? 」
「いや、まだそんなことにはなってないんだけどね……なんか、そんなことに……」
言ってること、めちゃくちゃ。
でも、インスタのことなんて、すっかり忘れてた。
それも十分恥ずかしかったけど、それよりもっと大きなことに脳内を占領されてしまって、他なんて入り込む隙間なんかなかった。
「……付き合ってって言われた」
「……だろうね。端から見れば、もう付き合ってるようにしか見えないもん。場所が場所、写真が写真」
私たちは、普通に出会うよりも近い。
向かい側からゆっくり歩いてきて、目に留まるんじゃなくて。
瞬間移動したみたいに、気がついたら正面に知り合いが立っていた――そんな感じ。
それだって、ただの知り合いだなんて言えないけど。
「でも、なんで堺くんが……」
「堺くんっていうか、みんな知ってんじゃない? 誰これ羨ましいー! からの、あれそういえばこの服どっかで見た……みたいよ。年下キラー、しかも誰とも付き合わない謎の女だからねえ。余計気になるんじゃない」
「謎の女じゃなくて、年下になぜかモテた今までが謎なの」
まあ、でも。
社内恋愛でも、別に悪いことしたわけでもないし、会社でバレたからって大したダメージじゃない。
「……返事、悩んでるんだ」
「……うん……」
だって、「好き」はただ受けとめられたとしても、「付き合って」には、どちらかの行動が必要になる。
付き合うか、断るか――。
「……そっか」
友美が口にしたのは、その一言だけだったけど。
その優しい口調に、ハッと気づかされる。
(……私、迷ってる。それって、つまり)
――突っぱねるって選択肢、もうとっくに捨てちゃってるんだ。少なくとも、あの陽太くんには。
「あ、そういえばさ。絶対来てよ、今度の結婚式。私一人にしたら殺すからね」
「分かってるってば。私だって一人なんだし、友美に来てもらわないと困る」
話題を変えてくれたのも、ありがたい親友の優しさと察知力。
でも、それで決心がついた――つけようとする勇気が湧いた。
(……悩んでたって、答え出ない)
会って、話して、今の陽太くんに触れて――触れてみたいって、思い始めてることだけは確かなんだから。