意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
約束なんてしてなかった。
電話なり、一言LINEでもすればいいのは分かってたけど。
何て言っていいのか分からない。
それを知りたくて会いに行くのは、すごく勝手だなって思うのに、じっとしていられなかった。
美容室の前、ううん、斜め向かいくらいにいる私こそ、自分すら本当に引く。
「ありがとうございました」
お客さんのお見送りなんて、毎回するよね。
私だから、なんてあるはずもない。
でも、嬉しそうに何度も振り返っては手を振る女の子を見たら、きゅっと締めつけられては緩んで、じゅくじゅくと膿むように気持ち悪いものが胸に広がる。
美容室帰り、私も好き。
どうやっても自分では無理な綺麗な仕上がり、艶、手触り。
元の自分を思うと最大限綺麗になれた気がして、テンション上がる。
それが、格好よくて、穏やかな男の人なら――もちろん、性別関係なく美容師さんという職業でしからなくても――尚更だ。
(……帰ろう)
何しに来たんだろ、私――って、そうじゃない。
頬を染めた可愛い女の子と比較して、卑怯すぎる自分が嫌になる。
答え、出すんじゃなくて。
答え出すの、助けてほしくて――……。
「輝? 」
ああ、ほら。
隠れるなら、もっと上手くできたのに。
「……なんで帰るの。来てくれて嬉しいのに……俺と会わずに行っちゃうの、どうして? 」
呼ばれるまま、ふらふら歩いて行ける距離にいたのは、見つけてほしかったからでしょ?
「嫌な思いさせちゃった? ……よね。付き合ってって、まだ言わないって約束したばっかなのに、もう破って。もともと信用ないのに、こんなだから輝を怖がらせちゃうんだって分かってるのに」
仕事の邪魔してる。
邪魔になるの、分かってて行ったくせにそんなこと思うの?
「輝が可愛いくて可愛くて、焦る。再会する前は、もし輝に彼氏がいたらどう奪ったらいいのかな……なんて、思ってたくせにね」
「……可愛くない。狡いし、弱いし、最低」
「……なんで、そう思うの」
否定されなかったことに、がっかりよりもほっとした。
そこで「そんなことないよ」って言われたら、この感情をもて余していたと思う。
「……今度、同僚の結婚式があるから、髪、セットしてほしいって言いに来た」
「いいよ、もちろん。……それ、どうして辛いの? おかしくないよ、何も」
おかしいよ、全部。
だって、もう知ってるよね?
「そんなの、ただの口実。断りたいなら余計、そんなこと頼むべきじゃない。陽太くんは仕事で……」
「……言わなかったっけ。俺、別に美容師になりたいわけじゃないんだって。輝の髪、弄りたかっただけだって。だから、何も問題ないよ。嬉しい」
覚えてる。
あの時も、そんなふうに照れながらも甘く甘く笑ってたって。