意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
「それにしても、幼なじみくん、やるね。それ、可愛い」
立食型のパーティー、友美がシャンパンと料理を器用に持ちながら言った。
せっかく来たなら、食べ呑みしないと損ってことらしい。
終わる前に、一通り全部口に入れようとするのに笑ってると、そう逆襲された。
「うん。ここまで、ちゃんとしてくれるなんて……」
「思ってたでしょ」
――はい。
セットは間違いなく、可愛い。
崩れそうなくらい脆くふわっとして可愛いのに、今のところ全然大丈夫だ。
今、鏡を見てしまったらやばい。
緩く巻かれた毛先が目に入るだけで、こんなにドキドキするのに。
全体を見てしまえば、これ以上に思い出してしまう。
あんなふうに丁寧に――壊れものに触れるみたいに動く長い指――……。
「何があったのか、つっこんでほしそうだねー? 」
「……ち、違うから!! 」
(……結局、思い出してしまった……)
結婚式も披露宴も、正直それどころじゃなかった。
それほど主役と付き合いがなかったのもあるけど、陽太くんのある種病的な甘さは、気がつけばすっかり頭から爪先まで、身体の内側すら浸食してく。
「幼なじみくんじゃなくて、彼氏か。輝がそんなふうに真っ赤になれるんなら、よかったよ。今度、紹介してよね」
「あ、それが……」
(……あれ? )
なんか、今。
無意識に思った何かが、後になってすごく引っ掛かったような――。
「こんにちは」
何だか分からない、ものすごく重要なものを探している途中で、後ろから声を掛けられた。
「え……」
「池田さん。すごい偶然ですね」
ここにいるはずのない、って勝手に決めてただけ。
それでも、「いると思ってなかった会うと気まずい人」の登場に固まってると友美が助けてくれた。
「新郎、後輩なんです。ええ、偶然ですね」
何か言わなきゃ。
それも何でもいい、何かじゃなくちゃ。
そう焦るほど、それらしい世間話が出てこない。
(だって、あの後……)
陽太くんに言えなかった続き。
『……え、っと。彼氏、いますので、ごめ……』
『それは知ってます。ですので、奪うという表現になりました』
その前の意地悪な顔は見間違いだと言わんばかりの優しいにっこりは、やっぱり台詞と合ってない。
『………っ、私、お断りしましたから……!』
『はい。ちゃんと聞こえました。でも』
――そっちは聞こえた? 諦めないって。
初めてのタメ口、初めて――強引に迫られる、なんて言い方じゃまったく足りない、圧力。