意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
「わざわざ、ごめん」
「急がせちゃって」は飲み込んだ方がいい気がして、代わりに袖に触れてしまって照れてしまう。
「何言ってるの。呼ばれて嬉しいに決まってるじゃない。来るなって言われてたら、何万倍もへこんでるよ」
こんなふうに、ちょこんと摘まむとか乙女か。
そんな柄じゃないって自分でつっこんだけど、こういう時って勝手に手が伸びてしまうんだなって、世の女子の気持ちがちょっとだけ分かる気もした。
「よかった。髪、崩れてないね。よく分かんないけど、ドレスとも合ってる……と思う。すごい可愛……」
「……っ、陽太くん。こちら!! 友美」
セットよりも、俯いて垂れた髪を気にして絡め取られ。
そのうえ、いつもの「可愛い」連打が始まりそうになって、急いで遮った。
「あ、紹介する? いや、紹介されないで気を利かせた方がいいのかと思ったわ」
(……そんなことしてたら、ちゃんと紹介できる日、未来永劫来ないと思う)
「輝のこと、よろしくお願いします。側にいない時、すごい心配で。輝、人前だと強がりだから……俺、側にいれない時しんぱ」
「……陽太くん……」
それ、紹介となんか違う。
「はい。でもそれ、私の台詞でもあって。……輝のこと、お願いします」
なのに、友美も陽太くんも笑わなかった。
まるで決闘するみたいに互いの黒目を見据え、ぴったり同じにふっと口角が上がる。
「もちろん。俺以上に、輝を大切に思ってるやついないので」
「あっ、それは異議ありかも。恋愛感情はないけど、私だって輝のこと愛してるんですからねー」
「……なんで張り合ってるの? 」
このむず痒さをどこに向けたらいいやら、そう言ってはみたけど。
でも、気持ちは嬉しいし、二人が仲良くなれそうでよかった。
「重い愛情の方向性って、誤ると大変ですよね」
そう、無理やり一件落着に持っていこうとするのを、瞬時に引き戻す落ち着いた声と笑顔。
「挨拶とか大丈夫? なら、帰ろ」
――を無視して私の手を取った後、なぜか――っていう希望――少し持ち上げて指を絡めた。
「私は一人で帰れるし。帰り道延々それ見るのごめんだから、お疲れ」
「気をつけてね」
友美のニヤニヤ顔を見て、ちょっと癒されて。
相手から少しズレた延長線で、ぺこっと頭を下げる。
「お疲れさまでした。また」
陽太くんが鼻を鳴らしたのと、池田さんの「また」の関係性が不安になる。
「……分かってる。あいつだよね。告白されたって」
二人から遠ざかると、ようやく陽太くんの顔の緊張が弛んだ。
「だよね。あんだけ喧嘩売られたらな」
「……ごめんね」
気のせいだよ、なんて言えるわけない。
どう考えても、池田さんの発言は挑発的だった。
陽太くんが流してくれて、ほっとしてる。
「輝が謝ることないよ。輝がモテるのなんて分かりきってたし、彼氏がいなかっただけで儲け」
陽太くんの目に、私は一体どんなふうに映ってるんだろ。
本当に私が見えてるんだろうかと、時々心配になる。
「俺も、もう少しフォーマルな格好してくればよかったかな。一人だけラフで浮いてたね」
「そんなこと……」
会場に入ってないんだから、当たり前なのに。
「……綺麗だよ。すごく。早く隣に行きたいって……行って、一分一秒でも早くあいつから引き離したいって焦るくらい」
――かわいくてかわいくて、気が狂いそうだった。
耳に触れた手が、震えただけだ。
指先が引っ掛かって、一房髪を乱したのなんて、きっと。
――偶然。