意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
家の前まで来て、陽太くんが名残惜しそうに両手の手首を握る。
「ね。ドレス姿、ちゃんと見せてくれない? 本当言うと、コートに隠れちゃってよく見えなくて」
「可愛いって言ったくせに」
池田さんから話題が逸れて肩の力が抜けたのと、陽太くんの「可愛い」攻撃の穴を見つけたみたいで面白くて。
クスクス笑ってからかったのに、彼は全然動じなかった。
「ん? 調子のいいことなんて言ってないよ。輝は可愛い。何着てたって……どんなことしてたって」
――だから、そんな意地悪されたって平気。
弱点を突くどころか、反撃されてしまった。
「でも、見たい。他の男は見れたのに、輝のことで俺は見れないなんて嫌だ」
「……誰も見たくて見たわけじゃないし、他に同じような格好してる人いっぱいいて、視界に入ってるかも怪し」
「他なんて知らない。……俺は輝を見たいし、輝のことが知りたいの。ね、見せて? お願い」
陽太くんのお願いは、本当に大したことじゃないのに、お願いされるとそれがものすごい大切なことだって錯覚させ、意味を持たせてくる。
「……すぐ着替えるよ? 」
「うん。そっちも見たいし、俺としては得かな」
その、「ありがとう」も。
そんなことでお礼言われちゃったら、ただ恥ずかしいだけで断る理由なんかなくなる。
部屋に入って、暖房をつけて。
コートを掛けたら。
「こっち向いて」
「……普通に部屋に来ればよかったのに……そんなこと言われたら、見せにくい……」
コート掛けを正面に、それから動けなくなる。
「なんで、そんな照れるの。外に出るまで、ずっとその格好だったのに。式の間、みんなに見せてたんだよ? ……そうやって、綺麗な背中だって」
「そ、そんなに開いてない……っ」
そんなこと言われたら、まったく意識してなかった背中が、急にスースーする。
耐えられずに向き直ったところで、捕まえられた。
「……ん……やっぱり、可愛い。でも、開いてるよ? ……こんなに」
開いたデコルテを見つめる視線が熱い。
肩にそっと触れた指が、迷うように僅かにブレた後、丸みをなぞるように包まれる。
「すごい妬けちゃう。……あいつも、ずっと見てたんだろうな。見ないわけないって、俺が一番分かるから余計」
ドレスって、こんなものだ。
結婚式のお呼ばれなんて、みんなこんな感じ。
いくら私がそう思ったって、それが事実だって。陽太くんには――……。
「……頭、痛くない? 可愛いけど、ずっとその状態だと痛いよね」
輝、輝、あきら。
そう呼ばれると思ったのに、違うことを言われてがっかりしてる……?
「あ……」
「ちょっと勿体ないけど、外そっか」
「……もったいたい……」
何を期待してたんだろ。
名前、呼ばれて。
可愛いって、すきって、特別だって囁かれるのに慣れすぎてない……?
「ん、ほら……」
ヘアアクセ、外して。
ゆるふわの髪を、手櫛が優しく解していくのが心地いい、のに。
「輝……可愛い」
それを待ち望んでたって、やっとそわそわがいなくなる。
「……好きだ。輝……」
砂糖中毒だ。
ほんの少し前に懸念して気をつけていたはずの、糖分過剰摂取。なのに、もう既に。
「……キスしていい? まだ、いや……? 」
後から後から、真上から降ってくる砂糖の山から抜け出そうとも思えなくなってる。
可愛い子ぶって、ふるふると首を振るだけの私に、また更に。
「ありがと。……可愛い……」
キスの前、合間、ずっと降り注ぐ。
優しくそっとされるキスには不要かもしれない、陽太くんの裾を握ったりする行為も。
溺れない為なのか、押し寄せてくる甘さを逃がさない為なのか、もうよく分からなくなってく。