意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
普段着――よりは、ちょっと可愛いのに着替えて。
「まだ、早いから……一緒にいていい? 」
深くなりそうでならない、その先までいってしまいそうなほど盛り上がってるのに、あくまで優しいキス。
何度も何度も繰り返され、陽太くんの唇が離れた時には、上がりきった熱にくらくらしてる。
また下を向いた睫毛が色っぽくて、そこまで切れてない息を吐く代わりに、渇いた喉を潤すように鳴らしたのが妙に男を感じてしまう。
唇を拭うよりも両目を覆う方が先だったのは、それを見上げる自分の目がどんな感じで彼に映るのか自信がなかったから。
誘ってるんじゃないかってくらい、欲に揺れてたらどうしよう――そんなわけない、なんてこの状態で否定できる要素がひとつもない。
「嬉しい。お話ししよっか。……俺、今結構ヤバいからさ」
大袈裟な深呼吸が可愛い。
わざと、色気から離れるような仕草は優しい。
「俺は、輝なだけで無条件に好きだけど。今更だけど、輝は何か聞いておきたいことない? 」
ヤバいのは私もだって、気づかれてるかな。
ゆるゆる指先を取られただけで、まったく離れる気がないのも。
「うーん……」
あのことを掘り下げることもできるかもしれない。
気にならないかと言われたら嘘になる、けど。
「引っ越してから、どうしてたの? 」
「んー……と。面白くない話になるけどいい? 」
それよりは当たり障りない質問だったのに、思ってもみない返事に慌ててしまう。
「あ、無理には……」
「ううん。俺も輝に話したいけど……輝を困らせるんじゃないかなって。あんまり深く考えないで? 」
いくら私がいないからって、それ以外は充実した生活をしてたんだと思ってた。
こんなに格好よくて、器用で、優しい。
そんな男の子がモテないはずはないし、美容師としてだって成功してる。だから――。
(だからって、無神経だった)
「ほーら。そんな気にしないの。だからこそ、輝に再会できて嬉しかったし、こうして付き合えて、キスできて最高に幸せ」
頭を撫でられて、ふと思った。
『もう、ひなは。そんなに泣かなくても……』
『……だって、あきちゃんいなくなっちゃう……』
私も頭を撫でて、大袈裟だなって笑ったよね。
でも、いなくなった。
引っ越したのは陽太くんだし、理由も原因もあったけど――いなくなった。
「あのこと、ね……さすがにそれはバレてはないんだけど、でも、俺の輝への気持ちはバレてたんだ」
「え……」
あの事件は、私は誰にも言わなかった。
親にも言えなかったことを、まさか陽太くんの両親に言えるはずない。
それなのに、どうして?
「輝じゃないよ。俺の……輝じゃなきゃダメって気持ち。輝は俺にとってお姉ちゃんでもなく、ただの初恋でもなくて……輝のことしか想えない俺が」
――すごく異常、なんだってこと。