意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!



「引っ越したのは、親の転勤のせいだけど。丁度いいって思ってたみたい。……輝と引き離すのに」

「……そんな……」


確かにあのことが起こるまで、まだ気弱だった「ひな」は私にべったりだったけど。
それにしたって、それこそ「可愛い」で済む話だ。
私も、私の両親もそう思ってた。


「それからもね。俺はあのこと……それまでの輝へ酷い態度をすごく後悔して、謝りに行きたかった。何度も頼んだんだ。……でも、教えてもらえなかった。連絡先も住所も。自分を恨んだよ。いくら子供だからって、どうしてそんなことすら覚えてないんだろうって」


じゃあ、もしかして、あのぬいぐるみは。


「……うん。あのぬいぐるみ、わざと捨てられちゃったんだろうね。引っ越しのどさくさに紛れて……って、輝に関するものは、ほとんど残ってないんだ。あんなに一緒にいたのに、本当に俺の中にしか、輝はいなくて」


そっと手を引き寄せ、掌に口づけられる。
掌の真ん中って、こんなに神経が集中してるのか――そう愕然とするほど、陽太くんの唇の感触が伝わってくる。


「忘れた方がいいのかなって、思ったこともあった。嫌われてるに決まってるし、俺なんかに二度と会いたくないって思われてるのも分かってた。……分かってたけど、どうしたって無理で。だって」


――噛まれちゃいそう。

掌へのキスが、さっきの唇へのキスよりもずっと扇情的だなんて。
今まで堪えてきたものが一気に溢れ、それでもどうにか我慢してるような、キス。


「他人の言う“まとも”だったら、そもそも引き離されたりしない。心配だからだってことも分かってたよ。それでもやっぱり……酷いと思った。誰か一人が好きって、そんなに変なことなのかな。入学とかクラス替えとか、イベントごとに彼女が変わるのがまとも? それで親が安心する意味、全然理解できなかったけど」

「ひなたくん……」


「ひな」だなって、これは本当にあの子が成長した姿なんだなって、今が一番しっくりくるかもしれない。


『……あきちゃんじゃなきゃ』


「他人の世界ではそうなんだって、納得はした。だから、それに順応して、もう大丈夫って安心されるまで、演技することにしたんだ」


『あきちゃん。あきちゃんとけっこんする為なら、なんだってする』


――だから、一緒にいて。
すき、すき、すき……大好きだから。


「俺、イイコにしてたよ。輝の連絡先も聞かなくなったし、明るくて、まあまあ優等生で……そこそこ恋愛もしてるふりして」


――俺、なんでもできるよ。


それは、けして嘘でも誇張でもなく事実だったんだ。
私が知らなかっただけで、もうずっと――あの日以来今日までずっと、陽太くんはそうして生きてきたってことも。


「何年になるんだろ。数えたくないくらい、もう永遠に近いような時間がやっと終わって……俺は“普通”なんだって信用されて、大人になって。やっと、警戒が薄れてチャンスができて、会いに行ったんだ。輝が実家出てるのは予想できたけど、やっぱり会えなくて残念だった」


巻かれた髪に陽太くんの指が通るたび、もともとのストレートに戻ってく。
巻いてくれたのは陽太くんなのに、どこか執拗ですらある動き。


「店に現れた時ね、本当に頭の中真っ白になるくらい幸せだった。この俺が、神様って思ったよ。信じられる? 諦めないで生きててよかったって……そう思うくらい、輝がいない世界が苦痛だったから」


――俺といて。輝が俺を好きになってくれること、全部全部ぜんぶ……させて。


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