意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
「だから……俺といてくれてありがとう。俺がこうしてること、許してくれて」
耳が熱い。
そんなふうに触られたら、肌が敏感になる代わりに聴覚が衰えてしまいそう。
「……抱きしめてもいいかな。ぎゅっ、ってしていい? 」
「……聞かなくていい……」
そうだよね。
再会した時みたいな私になったら……そう思うと不安になるのも無理ない。
そう言っても陽太くんのぎゅ、はかなり緩くて、こっちからしがみついてないと簡単に解けそうになる。
「俺は……輝の今まで、聞けないかも。嫉妬するの目に見えてるし」
「そんな大した経験は……」
あの事件がトラウマになってたことは、言う必要ない。
それが原因ではあっても、きっと私にもダメなところはたくさんあった。
「ほんと……? 実は、忘れられないやつがいたりしない? 」
「いないよ」
それは、陽太くんだった。
忘れたくても忘れられない。
いい意味ではなかったけど、でも。
「そっか。でも、やっぱり妬ける。輝にいろんなこと教えた男、殺しちゃいたいたくなる」
お互いに一人だけ。
陽太くんの言うように、それがいいことなのか悪いことなのか、普通なのか異常なのかは何とも言えない。
「……私だって妬けるよ」
「え? 誰に? こんなに引くほど輝だけなんだよって話なのに」
そうやって、今力を緩めるのずるい。
抱きしめられていた時は、頬がぴったり胸について隠れてたのに。
もっとよく見えるように両頬を包まれ、強制的に視線が上がった。
「陽太くんの付き合った人も。指名してるお客さんも……全然気にならないなんて言えない」
陽太くんの両親には歓迎されないだろうなって思うと、ちょっと悲しいし。
陽太くんに嫌な思いさせるんじゃないかなって心配もある。
「輝が嫌なら、辞めてもい」
「ダメ」
だけど、今はそこには触れたくない。
言うと思ったって笑う間も、そんなに甘く見つめたままの瞳を困らせたくない。
「そういえば、根元伸びてきたね。この前、カラーしなかったもんね」
「真上から見ないで……」
分け目覗かれるって、意識すると何だかこの上なく恥ずかしい。
「えー。でも、どうせ見るよ? 」
今更だけど、彼氏にやってもらうのと美容師さんにやってもらう意識とじゃ、恥ずかしさが全然違う。っていうか、その言い方だともしや。
「俺にやらせてくれるよね? 」
――やっぱり。
「で、でも。さすがにヤバくない? 怒られるんじゃ」
(というか、私が気まずいです。行く勇気がない)
「店にとっては、輝もお客さんだよ。まあ、ものすごい時間かけたり、キスとかハグしたりしなかったら、多少いちゃついても大丈夫じゃない? 」
「当たり前……じゃない、大丈夫のわけないでしょっ……? 」
うっかりスルーするとこだった。
頬に置かれたままの手を掴んで捕まえて、正気に戻ってもらいたい。
「ん、了解。上手くやるね」
(……ぜんっぜん、了解してない)
「だって、他の男に触られたくない」
「……じゃあ、女」
「……でもやーだ。俺がいるのに、他に頼むことないでしょ。……あのね、輝。俺さ」
――世間一般的に、自分が頭おかしいの分かってる。
「輝しかダメなの、執着しててイカれてるって言われるくらい異常……っ、あ」
そんな顔して、自分のこと悪く言ってほしくない。
でも、どう否定してあげたらいいのか分からなくて、気がつけば人差し指で唇を塞いでた。
「……あっ」
そっと口づけられたのが勘違いだったみたいに、生々しいぬるっとしたものが指に触れた。
「……頭、イッてても、輝のことだけは大事にできるから。心配しないで。何も、妬くことなんかないよ」
かわいいかわいい。
大好きだよ。
「鎮める為にお話ししたのにね。……もう、可愛いな……」
それ以上、それを言われたら。
――もう、鎮まることなんかなくなりそう。