意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
(……来ちゃう私こそ、頭イッてるかもしれない)
普通に考えて、お店に迷惑だよね。
いくらキスしたりハグしないって言ったって――当たり前だけど――やっぱり、「付き合ってる」って雰囲気はどうしても出ると思う。隠してたって、そういうのは何となく滲み出るものだと思うのに。
「あーきら」
「わっ……」
お店の前まで来て、助けを求めるように来た道を振り返っていると、正面に現れた陽太くんに手を引っ張られた。
「まさか、帰ろうとしてたんじゃないよね? 」
「ちょっ、ひな……ハグ……! 」
(……しないって言ったのに~!! )
「だって、輝今にも帰っちゃいそうだったから。捕まえとかないと」
お仕置きとばかりに、ぎゅうぎゅう抱きしめられるのは、この前みたいな色っぽさは薄れてるけど。
それでも恥ずかしいものは恥ずかしいし、仕事中は仕事中だ。
「店の中ではしないよ。ちゃんとお仕事するから、今のうちに」
ふっと締めつけが弱くなって、だから、ヤバいって思う。
「来てくれてありがと。仕事、楽しみで仕方なかった。……輝が来るから」
囁く声がぐっと色気を増して、腕の中で腰砕けてしまいそう。
「……お願いします」
「こちらこそ。行こっか」
腕は離れたけど、その後すぐにエスコートするみたいにそっと肩に手が置かれて。
ああ、そっか。
私も、楽しみにしてたんだ。
恥ずかしいって文句を言いながら、そんなやり取りすら、きっと。
(……うわぁ……)
視線、半端ない。
これほど一人で視線を集めたのは、今までの人生で初めてじゃないかってくらい見られてる。
「はい、どうぞ。ちょっと待ってね」
よく考えたら、この姿って間抜けだな。
黒のローブ掛けられて、これからカラー剤塗った髪をラップで固められるとか。
あんまり、彼氏に見せられる姿じゃない気がする。
「どんな感じにする? 」
現実逃避にもならないことを考えてると、カラーチャートを持ってきてくれた。
「あんまり明るくはできないけど……」
ちょっと雰囲気変えたいかも。
何だかんだいっても、やっぱり本業。
いろいろ相談に乗ってもらってるうちに、楽しくなってくる。
適当に前と同じ感じでいいか、と思ってたのが嘘みたいに満足の仕上りだ。
「気に入った? よかった。……俺も、この色好きかも」
もう終わったと思ったのに、必要もなく髪をそっと指に引っ掛けて。
ビクンとしたのは、触れられたからと言うよりその声のせいかもしれない。
「輝って、くすぐったがり?……そんなふうにビクビクされると、苛めたくなっちゃって困る」
(困るのは私……!! )
明らかに、お客さんとの会話の域を越えてる。
「可愛。……ね、輝。もしこの後時間あったら」
――待っててくれる?
手首を見ると、そこにはちゃんとロッカーの鍵がぶら下がってる。
じゃあ、差し出されて思わず両手で掬ってしまったこれは。
「好きに寛いでてね」
びっくりして硬直した指を包んで、しっかりと握らされてしまった。