意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
帰り道、冷たく刺すような空気が心地いい。
『え……送ったらダメなの? 』
『…………美容師さんでいてほしいから』
あの後も、盛大にごねられた。
『輝のいじわる。俺ばっかり好き好き言ってて悲しい……』
会計を済ませてもその調子で。
『でも、ほんといいね、この色。輝に似合ってる。俺、これ好き……可愛い、すき……』
終わりの見えない「可愛い」「好き」に私だけじゃなく周りも耐えられなくなった頃。
お見送りも、もちろん家まで送るなんてあり得ない申し出も拒否すると泣き真似までしそうな勢いで拗ねられてしまった。
(……大丈夫かな)
ハグもキスも店内ではされなかった。
以上――そう強制終了したくなるほど、言葉、視線、声――触れなくてもできる愛情表現が、それで補っても余りまくって溢れ返るほど凄まじい。
(……クビになりませんように!! だって)
――私も、この色好きになった……かも。
恥ずかしいけど、照れまくるけど。
羨望と嫉妬と、呆れた視線が痛すぎたけど。
でも、やっぱり、愛されて満たされる感覚を味わうのは幸せだと思う――重いけど。
こんなに一途に想われるなんて、初めての経験かもしれないな――……。
「……っ」
今、カツンって音、した?
ううん、そんなの当たり前だよ。
アスファルト、普通の道端、私一人が歩いてるんじゃない。
それが男の人だって、こんな靴音だって、そんなの普通――……。
(……でも)
真後ろにいる気がするのは、どうして。
今一瞬立ち止まったのに、追い抜かないのはどうして。
そもそも、いつもよりのんびり歩いてたと思う。
男性の歩幅なら、いつまでも後ろにいるなんて変だ。
(……まさか、あの時の……? )
陽太くんがわりとあっさり私を解放したのは、もちろん仕事もあるけど、きっと帰る先が私の家じゃなく陽太くんのところだったからだ。
あの男が、美容室から陽太くんの家までの道を知ってるはずない。
でも、どうして……?
そんなのあり得ない、けど。
――身近に、そう何人も変質者がいることの方が変だ。
(……はしらなきゃ)
幸い、まだ明るい。
お店だって開いてる時間。
どこかに駆け込んで、警察を呼んで。
陽太くん――また、迷惑掛けちゃうな。
とにかく、走――……。
「……伊坂さん」
うしろ。
真後ろだ。
聞き覚えのある声に呼ばれて、靴音に怯えて逃げようとした時よりも背筋が凍った。
「……池田さん……」
――それは、どうして……?