意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!


(なんで……? )


こんなところにいるの。
いるならいるで、さっさと声掛けてくれないの。


「所用で近くを通ったものですから。すみません……怖がらせてしまいましたよね。髪色が違うから、伊坂さんかどうか確信が持てなくて」


その疑問にすべて答えてくれたのに、「まさか」「そんなことあるわけない」がいっそう頭の中を駆け巡る。


「彼氏さんはお仕事ですか。……じゃなかったら、あなたの側から離れなさそうですし」

「……そう、です」


陽太くんは仕事。
そうじゃなければ一緒にいて……庇ってくれたと思う。


「結婚式でお見掛けしただけですけど。……大丈夫ですか? 随分、伊坂さんを溺愛されているみたいですね。気持ちは分かりますが……苦しくはありませんか」

「……大切にしてくれてます」


ふっと笑ったのは、けして馬鹿にした感じじゃなかった。
唇を噛んだのは、質問の答えとして適切じゃないと自分で思ったからだ。

ただ、それは事実。


「この前は失礼しました。悔しくてつい、意地悪なことを言ってしまって」

「いえ。大丈夫です」


間なんか置きたくなかった。
意地悪だったって、怖かったなんて認めたくなかった。でも。


「あなたらしいですね」


あんまり早すぎたかもしれない。
何のことだっけ、って、考えるくらいの間は必要だったのかも。
私の作り笑いの返事にはならないくらい、余裕のある微笑み。


「言ったように、いつでも連絡してください。伊坂さんが危ない目に遭うのを、黙って見ていたくはありませんので」


(私らしい……? )


って、なに。
陽太くんの何を知ってるの?
私たちの、一体何を。


「失礼します」


――見たことなんか、ない、くせに。


(……そうだよね……? )


そうに決まってる。
でも。


「お気をつけて」


――何に……?



・・・



「ただいまーって、何かいい匂いする。え、まさか、あき……っと……」


びっくりでしょ。
私が料理して待ってるなんて。


「……ただいま」


帰るやいなや、自分からくっついてるなんて。


「ごめん、遅くなって。もう大丈夫だから……」


変だって思ったはずなのに、何も聞かずに抱きしめ返してくれた。

遅くなんかない。
きっと、すごく急いでくれたんだと思う。
また無理したんじゃないかな。


「ごめん、勝手に」


料理、そんなに得意じゃない。
勝手に冷蔵庫開けるのも、頼まれてもないのにスーパーに買い出しに行くのも躊躇ったけど。


「俺が嬉しいのに、何で謝るの」

「……だって、そんなに美味しくない」


その手は、すごく心配そう。
頭、肩、背中。
撫でては包んでを繰り返して、早く何があったか知りたいって言ってくれてる。


「美味しそうな匂いしかしないよ? ありがと、輝」


なのに、そうやって笑うだけで。
私が落ち着くのを待ってくれて。


「……怖かった」


素直に言えた私を一瞬ぎゅっと抱いた後、慌てて優しく緩ませて、ゆっくりとこめかみに唇を落とした。



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