意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!


(……い、今の声って)


記憶なんか、もうない。
それもそのはず、最後に聞いたのは大昔。
声変わりした陽太くんほどじゃなくても、年齢を重ねて多少変わってるはずで。


「…………おばさん…………? 」

「…………………」


だとしても、恐らく母くらいの年齢の女性が訪ねてきて、名前を呼び捨てにするなんてそれくらいしか思いつかない。


「っ……ちょっと……!? 」


無言・無表情に見えて怒ってる陽太くんを見れば、それは当たり――なのに。


(~~この状況でなんで、ころころし続けられるかな、君は……!! )


硬いままでいられる私もそれなりかもしれないけど、こんなふうにずっと弄られたら仕方ない、と思う。


「……で、出よ、っか」

「………輝との初体験が消えるとか嫌。絶対やだ。大体俺ね、今親に見せれる状態じゃないし」

「……そ、それは、その。まず、この手退けてみるとか」


(とにかく、見せれる状態に戻る努力、してみよう。うん)


「えぇぇぇぇ……ずっとふにふにしてたいのに……」

「……ふにふには、ちょっと前に終わってたよね」

『……陽太? いるんでしょ? 』


その段階は、わりと前に過ぎてたし。第一。


「……くにくに? こり……」

「~~ぎ、擬態語? に、関わらず、いったんストップ……! い、いったんでいいから!! 」

「……ほんと? いったん? いったん、だからね。絶対?約束? あき……」

『ひなたー!? 』

「ほ、ほんと! 絶対いったん、約束……!! 」


おばさんの声が入る間隔が、既に短くなってる。
そのうち電話もかかってくるだろうし――ううん、親子とはいえ突然来るなんて何か理由があると――。


「……はーい。あーあ、輝、とろんから抜けるの早い。俺はまだ、こんななのに」


(だ、だから!! この、こり……や、やめないと、おばさん卒倒するから……!! )


こんなことしてる時に彼氏のお母さんの声を聞いて、とろんとしてろと言う方が無理だ。
もちろん本気だけど、わざとコミカルに言ったのは不安だから。


(……反対、されるんだろうな。っていうか)


私とのことを耳にして、慌てて押しかけたのかも。


「そんな顔しないで。輝を諦められるなら俺、こうして現れてないから。あんな地獄に戻れるわけないよ。俺が今、どんだけ幸せか……もっと伝えたいな」


シャツを着る暇がないと判断したのか、陽太くんの服をすっぽり頭から被せてくれて。


「俺も、約束」


何も心配いらないよ。
そう、子供の頃の私みたいな、ふわりと軽いキスを。


「……いきなり来たんだから、ちょっとくらい待ってって」


低く返事をした陽太くんは、もう可愛くも普段ののんびりした感じもない。
何の表情もなく、どこか暗くも見える瞳にすごく嫌な予感がする。
ドアを開けて来客をお出迎えた瞬間、それは的中してしまった。




< 54 / 83 >

この作品をシェア

pagetop