意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!


「……何の真似? 」


後ろで小さく息を飲んだ私の手を、陽太くんがきゅっと握った。
子供の頃以来だし、陽太くんの服を着ているところを彼のお母さんに見られるなんて気まずいけど、挨拶すらできなかったのは別の理由。


「偶然、梨沙ちゃんに会ってね。そしたら、あんた一方的に別れて連絡もしてないって話だったから。仕事忙しいのは分かるけど、お母さんもあれ以来話してないって心配……」

「仕事のせいじゃないよ」


梨沙、ちゃん。
おばさんの後ろで不安そうにしてる彼女――は、そう。そうでしかあり得ない。


「お母さんはいいとしても、彼女くらい……」

「あ……いいんです。ごめんね、陽太。こんないきなり……」

「ほんと。いきなり、勝手に、終わってんのにね」


私は何にショックを受けてるんだろ。
彼女がいたことは聞いてた。
おばさんが、私のことを良く思ってないのも。
目新しい事実は何もないのに、いざ目の当たりにすると胸が苦しい。


「お互いフェイクは終わり。その話、したし」

「フェイクなんて、ひど……」

「始めから、そういう話だったけど。好きな子いるって。……で、どっちがどっちを煽ってこここまで来たわけ? おまえ?」


陽太くんを呼び捨てにしたのも。
陽太くんが、彼女を「おまえ」って呼んだのも。
痛くて痛くて、泣いてしまいそうになる。


「俺、忙しいんだよね。やっと大好きな子に再会できて、彼女になってくれて……なのに、こんなふうに傷つけて。早く説明したいから、帰ってくれる」


ちょっと待って。
せめて、おばさんに挨拶くらいしなきゃ。
印象悪いかもしれないけど、嫌われたままって辛い。
たとえ、おばさんは彼女の方を望んでたって――。


「……っ、説明ってなに……!? どうせ、その人も私と同じだよね? 説明なんてしなくても、ばらせばいいじゃない。私に言ったみたいに“ゲイだってこと知られたくないから、付き合ってるふりして”……って……! 」

「………………え…………………? 」


(ゲ……イ? え? 誰が……え!? )


「……くっ……」


この場に相応しくない爆笑が、玄関に響く。
とはいえ笑ってるのは陽太くんだけで、ぽかんとするしかできない。


「ごめん。だって可愛いくて。そんな顔しなくても俺、ストレート……っていうか、輝だけ。あれ、もう忘れちゃった? ……さっきの。ね。違ったの、輝が一番知ってるのに。俺、あんな……さ」


耳元で言うのに、声、ちっとも落としてない。
彼女にも、おばさんにも丸聞こえだろう――わざと。


「……っ」

「あ、すごい助かったのは本当だし、感謝してる。だから、誰にばらしても怒らないよ。別に変なことでもないし。ま、これ見たら、誰も信じないかもだけど」


いつの間にか、見せつけるように後ろから私を抱いて。


「陽太くん……」


そんなふうにぎゅっと腕を締めたら、借りた服の下、何も着てないのがバレそう――……。


「ごめんね。あれがすべてなんだけど、ちゃんと説明したい。……させて、ね」


そう私の頭を撫で、唇を噛んで一人先に階段を駆け下りていく彼女を追おうかと困惑するおばさんを真正面に見た陽太くんは、私の背中が凍りそうなほど冷たかった。




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