意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
ガタンとドアが閉まる音が、少し遠い。
私が待つのはもちろん陽太くんなのに、なぜか何かを伝えようとするようなおばさんの顔が脳裏から消えない。
「本当にごめん。まさか、あいつまでいるなんて……」
――あいつ。
親しさを感じずにはいられない代名詞に、またズキンと胸が痛む。
「っ、え……輝……? 」
(どうして、そこでびっくりするの)
心底驚いたって声と、顔。
何だかおかしくて可愛くて、ちょっとだけイラッとして笑ってしまう。
「……ご、ごめん!! 本当にごめんね。親だけじゃなくて、他の女が押しかけてくるなんて嫌だよね。怒るのも無理ないけど……でも、あの……輝……」
――泣いてる。
「……私だって、泣くよ。だって……好きな人が、他の子のこと“おまえ”とか“あいつ”って呼んで……可愛い子が、彼氏を呼び捨てにするんだもん。そんなの目の前で見たら、泣く……」
「……輝……」
まだ、びっくりするの?
私って、そんなに強いお姉ちゃんだったのかな。
「ほんっっとにごめん……!! 俺、その気持ち、あんまり分かってないかもしれないのに、なんか、すごい……ニヤニヤして止まんない……」
正直すぎるよ。
泣きながら笑う私にあたふたして、たった今我に返ったみたいにぎゅーっと抱きしめてくる。
「……あ……そういえば、俺、輝のことはあきらって呼ぶね。それ、距離があるとかじゃないんだよ。だって……俺が女の子とか、人って認識してるの輝だけだから」
「え……? 」
そっちの方が、私的にはよく分からない。
「輝以外、ただの生物なんだよね。ノーネーム……うーんと、ほら。道端で動物とすれ違って、名前呼ばないじゃない。犬、とか、猫とか……そう表現するよね。そんな感じ」
「……う、うーん……」
言いたいことは分かるような。
でもそれ、分かっちゃいけないとも思う。
「輝のこと、呼んでたい。代名詞、使いたくない。名前……声に出したいんだ。輝も呼んでいいんだよ。陽太って」
「ひ……陽太……ん……」
あんなに妬んだのに、いざ許可されても上手く呼べない。
「好きに呼んで? くん付けも、可愛くて気に入ってる。昔はひな、だったよね。それも懐かしくて好き。そこから意識して、くん、つけちゃう輝は可愛くてもっと好き。大好き……」
(バレバレ……)
そんなことは、黙ってても知られちゃうのに。
私にしては、ううん、世間一般的に分かりやすい嫉妬にはまだ首を傾げてる。
「あとは……? 泣いてる理由、教えて。言っていいよ。悲しいのも、ムカついたのも、全部聞かせて。輝の気持ち、聞きたい。知って全部……」
――俺が好きなの、輝だけ。
そう、証明させて。