意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
あの子が羨ましかった。
「……あれはね。輝のことが気に入らないってわけじゃないよ。寧ろ、輝を心配してるんだ」
おばさんのあの表情は、やっぱりそうだったんだ。
今、私「意味分からない」って顔できてるかな。ちゃんと驚けてる?
「あいつだからってことじゃない。輝以外なら、安心ってこと。輝のこと以外、俺は病的な執着しないからね」
それには、どう反応していいか分からなくて、すごく変な顔してたみたい。
「自分で分かってるよー。病んでるって」って、爽やかに笑う。
「病むよ、そりゃ。あんなに大好きで……依存しまくってた輝に、急に会わせてもらえなくなったんだから。それも、酷いことした直後だし」
「可愛い……」
今頃、自分の服を着た私を見下ろして、そう唇が動く。
「品行方正に……っていうか、とにかく普通の思春期を送ってるふりして、周りを騙してた話はしたよね。その一環があれ。あいつが最新で最後だから、さっき言ったみたいに付き合う前に申告はしてたんだ。好きな子がいるって……その為のフェイクだって。なのにさ」
(好きになっちゃうよな……)
陽太くんが側にいて、人前で付き合ってるふりしてたら。
きっと、それがフェイクなんかじゃなくリアルだって、脳が錯覚する。
「さっき、すっごい演技してたけど。結構がんがん来られてね……しまいにっていうか、早々に面倒になってゲイだってことにした」
「…………なるほど」
他に相槌がある?
そこに行き着くまで、結構なショートカットのような気もするけど、分かったのは分かった。
「他に好きな人がいることも、主に親の前で彼女のふりしてほしいことも……ふりだけで、ヤりたくないのも。それで説明ついたし、ちょうどよくて」
「……きつかった……? 」
陽太くんはああ言ってくれたけど、彼はストレートだ。
恋愛感情と欲求は、必ずしも一致しない――会えるか会えないか、会ったとしても関係できるかどうか、まったく不確かなものを待っている間は特に。
「ううん。それ自体は、本当に都合よくて。それまで散々、輝の代わりなんて無理だって経験してるから。本当に、あいつとは何もなかったんだよ」
「……ごめんね」
あったとしても、何も悪くないのに。
そこまで待ってくれて、やっと会えて、その私は――……。
「俺の為だよ。俺が、もう輝としかしたくなかったの。何がなんでも輝に会って、好きになってもらえる努力しなきゃ……すごい自信だと思われるかもしれないけど、そうじゃなくて……俺にはそれしか選べないだけ」
――早く、会いたかった。
「俺がまだこんなに輝だけだって知られたら、閉じ込められちゃうんじゃないかって。輝を傷つけたりしないように、病院か何かに連れて行かれて二度と会わせてもらえないんじゃないかって……だから」
大袈裟だなんて言えなかった。
もしかして、陽太くんのご両親は本気で――。
「……うん。昔ね、カウンセリングみたいなの受けさせられたことあるんだ。俺があまりに……他に何も興味示さないから」
「そうだったんだ……」
それで、フェイク。
普通、だなんて。
「……輝……」
言ってあげられないかもしれない。
異常、かもしれない。
でも。
「怖がらないの……?」
ぎゅっとしがみついたのを抱きしめ返すか迷ったのか、少し広めに空いた身体の空間。
「怖いこと、されてないもん」
あの日以来――もう、それを遡らなくていい。
「……っ、うん。輝には、俺……」
まだ戸惑ったままの陽太くんにもっと寄って、隙間を埋めて。
「もう、つくらなくていいから。他の人にも……」
「……輝とその他の区別しかないけど、努力する」
「……ん……」
自分から言ったくせに。
微妙な返事をする私に笑って、やっと抱きしめてくれた。
――やっぱり、優しくできるのは輝だけ。
耳奥にキスと、甘く病んだ囁きを流し込みながら。