意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
(……だるい……)
そう思うのは、いつぶりだろう。
怠いと身体が感じるのは、頬が熱っていられるからだ。
終わった後、脳内麻薬がすっかり消えてしまったせいでモヤモヤや悲しさや寂しさが残るなら、身体の怠さよりもずっと重い。
「……ごめんね」
だから、謝らなくていいのに。
「本当にありがと、輝……」
そう思ったのが聞こえたのかな。
そのお礼は素直に受け取りたいし、それに。
(私も、ありがと)
そう、言わなくちゃ。
もうちょっとだけでも身体を起こして、伝えたいって思うのに。
(……うう。ごめん……今、無理だ……)
ちょうどいいくらいに熱が引いて、残って。
そっとキスされ、頭を撫でられる。
眠気を誘発する要素が完璧に揃ってて、すごく幸せな初めてってこんな感じなのかな――……。
「…………」
声、じゃない。
無言で、でも喉の奥で不満を飲み込んだみたいな音が、微かに聞こえた。
(…………? )
何かしたのかと不安になったけど、髪や耳、肩を包み込む手は変わらすに優しい。
覆い被さるように感じていた気配が、ふっと遠ざかる。
(何かあったのかな……)
目を開けたかったけど、何となく怖くてできない。
(……怖い、なんて)
思うことないのに。
さっきだって、あんなに甘く愛情いっぱいの触れ方だった。
私に怒ってるんじゃないと思う。
怒る――……。
――誰に?
もしかして、スマホを見てるのかな。
また、お母さんから連絡があった、とか。
薄目で確めたい気持ちを抑え、何とかこの気だるさに集中することにした。
・・・
「あ……」
それから、どれくらい経ったか分からない。
陽太くんの気配が近くに帰ってきて、軽いキスが頬に落とされて。
そこから更に待ったつもりだけど、実際にはすぐだったかも。
「……えっ、と。……つらい……よね。ごめ」
起き上がるのを手伝ってくれて、なぜかあたふたしてる彼に頬を寄せた。
「……謝ること、何もないよ? 」
「なかなか起きないんだもん。頭、真っ白すぎて……もしかして、抱き潰しちゃうってこういうことなのかなって」
いくらなんでも、そこまではしてない……はず。
ドキドキとか、頭真っ白とか。
そういうのはあっても、身体は潰れてない、と思う。
「ありがとう」
キスも、可愛いも、好き、もなく。
ただお礼を真っ直ぐに言われて、私は不要な心配をしてたんだってほっとして、遅れて罪悪感が襲ってきた。
「……あのね。やっぱり俺、輝の今までが羨ましいし、憎いけど。できることならどうしたいかって、楽に死なせたくないくらいのことしてやりたいけど」
「………けど? 」
そこで終わらないでねって暗に言うと、続けてくれた後半部分は。
「そのおかげで、俺は輝に痛いことせずに済んだ」
思うところがあるのは陽太くんなのに、私の方が切なくなるなんて、申し訳なくなる。
「俺の身体で、俺のすることで輝が傷つくのは……嫌だ。もう、絶対しないって誓ったことだし。だから、ね……よかった? 本当に? 輝、何か改善点とか」
「な、ないってば……!! じゅ、じゅうぶん、よか、よ、……った!! 」
何度頷いても見えてないふり。
声を張るまで繰り返され、事実を本人に申告するしかない。
「俺も。でも、まだ研究が必要かな。輝が、前のこと一瞬でも思い出せなくなるくらい。もしくは、比較して陽太くんがいいーって言ってくれるくらい? 」
「………そんな必要ないのに」
そんなの、もう思ってる。
「陽太くんがいい」
抜け出せないんだよ。
その嬉しそうな吐息を、こうして目を逸らして、そのくせ自分からくっついて聞ける場所から。