意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
「ね、輝」
耳にキスしながら名前呼ぶのは、狡猾?
それとも、話したいけど、その間も惜しんでくれてるのかな。
「……う、ん……? 」
(あれ……ドライヤー……)
いつの間にコードを抜いて、いつ仕舞ったんだろう。
それほど私は、キスひとつ落とされるたびに他に何も見えなくなる。
「今度、輝の実家に報告しに行こっか。……気が早いかな」
なのに、キスが途絶えてうつらうつら遠退き始めた意識がやや戻って、首を振った。
「そんなことないよ。陽太くんなら」
今まで、親に紹介なんてしたことなかった。
そんなに長く続いたこともなかったし、他のカップルがどうかなんて、よく知らない。
「よかった。俺の方は……まだ時間かかるかもしれないけど。でも、だからこそ、輝のとこはちゃんとしておきたいんだ」
「ありがと。喜ぶよ」
大歓喜だろうな、特にお母さんは。
それ見たことかって言われそう。
「友美さんは? 俺のこと何か言ってた? 」
「友美? なんで? 」
友美は相変わらずだ。
「いつの間にやら、輝の方がハマってるんじゃない」なんて、からかいながらも――……。
「根回し」
「……ん……っ」
何の、なんて尋ねることもできない。
それこそ、いつの間にやら陽太くんは私を熟知してしまっていて、火がつくのなんて一瞬だ。
「俺の夢を叶える為の、だよ。輝の気持ちを俺に向けるのは、丁寧に大事にしなくちゃだけど。輝が受け入れてくれたら、すぐ実行できるように」
「……って……? 」
思考能力の低下が著しい。
一度じっくりと解されて、その後も優しく甘やかされた私は、日を追うごと、重ねるたびにそれが酷くなる。
「俺の夢って何だった? 」
「……び、ようし……」
髪に触れられ、無意識に不正解を言ってしまった。
無意識――だと思ったけど、実は違うのかもしれない。
わざと間違って、それでも怒らない陽太くんに意地悪されるのを期待してる。
「可愛い」
その可愛いの意味は、分かってしまった。きっと。
――お仕置きされたがって、可愛い。
「あんなに何度も……っていうか、口を開けば言ってたのに」
『あきちゃん。ね、やくそく』
一緒にいて、の後。
一緒にいて、を破ってしまった後は特に。
「え……っ? 」
それは、まさか。
「思い出した? 何だっけ」
思い当たることがあっても、私からは言えなかった。
だって、あの頃の陽太くんなら、彼が本気だと分かっていても二つ返事だった。
それは適当に流したんじゃなくて、もちろん私も本気だったけど。
即答できたのは、それがまだ先の未来のことだと思ってたからだ。
「……分かんな……」
「うーそ」
ちゅって聞こえた気もする。
でも、悲鳴にもならない声をハッと飲み込んだのは、「お仕置き」のつもりか、耳の軟骨を優しく甘噛みされたから。
『あきちゃん……ほんと? 絶対? 約束……』
「……けっこん……」
――して。ほんと……? 絶対だよ。
「ん。あの頃の輝は、さらっといいよって言ってくれたけど……大人の輝には、もっと準備が必要なの、当然だから。根回ししとくの。いつか輝が、俺でいいかなって思ってくれた時の為に」
今の陽太くんは、あの頃よりもずっと軽く言ってみせたけど。
「いいよ」
「……え……っ」
私の返事は重くないかな。
「嘘。……いいよ、じゃなくて」
――よろしくお願いします。