意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
陽太くんが息を飲むより、掻き抱かれる方が先だったから。
「……っ」
ほんのすぐそこで吐息混じりの声が聞こえて、私の息の方が止まりそう。
「……本気にするよ……? 」
いつもみたいに確認されて、陽太くんらしいなって思うのに、今度は笑えなかった。
「本気じゃなかったら、言わないよ」
「行かないよ」の嘘は、思った以上にトラウマになってるのかもしれない。
引っ越し、愛情表現の間違い、私たちが疎遠になったこと。
それら全部が、子供の頃の記憶に直結してしまう。
「……どうしよ」
「え……? 」
今度尋ねたのは私の方。
そこで迷われてしまうと、ううん、そりゃちゃんと考えるべきことではあるけど――ほぼ即決してしまった私の方こそ、どうしていいのか分からない。
「嬉しすぎて、輝の髪、乾かせない……」
(……相変わらず、変なところで困るなー)
いつもなら、そこでそう笑ったと思う。
できなかったのは、陽太くんにしては珍しく、すごく性急に唇を奪われたからだ。
「……ん……輝、そんな可愛いこと言って逃げないで……」
心とは反対に、酸素と平静を求めて身体が少し退けたらしい。
両手で頬から耳、後頭部まで包むように固定され、再び口づけられる。
屈みっぱなしはきつくないかなって、背伸びしたら。
不安定な身体がいっそう、立つことすら難しくなる。
「逃げない、から……」
約束の証。
正気でもふらふらする身長差なのに、熱が上がって朦朧とし始めると、もう。
「最初から、こうしてればよかった。ひ弱な自分は嫌いだったけど、輝は好きでいてくれてたのに……強いふりも、強いの意味も分からなくて。あんなことしなければ、引っ越してからも輝に会えたかもしれないのに」
首を振ったのは、否定じゃない。
もう今更、考えても悔やんでも、思春期の私たちには戻れないから。
「また、輝が好きになってくれた。こんな俺のこと……」
「や……」
そんなふうに言わないでほしい。
今の陽太くん――ううん。
「陽太くんが好き」
もうそんなふうに区別しないで。
ただ、あなたのことが。
「大好き」
「ありがと……。俺ね、本当に幸せ。あの頃の俺も、輝といれて幸せだったけど。今は、輝のことも幸せにできるから」
――俺を好きでいてね。そしたら。
その後、どう続いたのか。
身体を支えていた陽太くんの手が、直接背中に触れてるのに気づいた時点で、もう私に考える頭はない。
「輝だけ。大好きな輝のことだけ、ずっとずっと大事に……」
――だいじにだいじに、可愛がってあげる。