意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
「……あの頃の俺は、輝より強くなりたくて。輝にとって、“守らなきゃいけないか弱いもの”じゃなくて、“守られたい強い男の子”になろうとして必死だった」
何を言ってるの。
顰めた眉も、疑いを隠してない瞳も、噛んでばかりの唇も――全身でそう言ったのか、陽太くんは苦く笑った。
「分かんないよな。当然だし、輝が理解する必要なんてないよ。最低な間違いなんだから。でも、親から引っ越すこと聞いて、焦ってた。タイミング悪く、輝が誰からか告白されたとか噂で知って。輝を奪われたくないけど、昔みたいな“ひな”には戻りたくなかったんだ」
「え……」
ひな、って名前、すごく可愛い。
自分の名前と比較して羨ましかったし、できることなら交換したいくらい、当時の私は人の名前だというのにお気に入りだった。
「……嫌だった? 」
「うーん。俺も輝、の方がよかったな、とは思ってた。ちょうど、同じクラスに雛子って子がいて、からかわれたりとかね。輝もそうじゃない? 性格もあるけど、昔は俺の方が大人しかったから、よく名前逆だったらよかったーとか言われたし。今思えば、だから何だって話だけど」
それは、よく分かる。
今じゃそう珍しくはないけど、子供は残酷だ。
子供の頃、名前を弄られたことなんて何度あったか、いちいち数えていられないくらい、からかわれた。
「男っぽくなりたかったんだ。輝は面倒見いいけど、本当はちょっと脆かったりもするし……子供の俺も、そんなところ気づいてたから、俺が弱いと思われないようにしようって。でも、どうやったらいいのか分からなくて……典型的な、好きな子苛める馬鹿になっちゃった」
風が吹いて、くしゃみをする。
「あ……」って小さく漏れた声、無意識なのか伸びてきた指先が、留まる場所を見つけられなくて彷徨った末、どこにも到達せずに下りる。
全部、スローモーションみたいに鈍く拾えて、切ない気分になった自分を叱り飛ばす。
「それで、どうしたらあんな真似できるの? 好きな子にいきなりできることじゃないよ」
好き、とか。
さりげなく「だから仕方ない」を混ぜて甘くする、ただの添加物だ。
彼の方が早熟で、当時の私が知らないことを知っていたのなら、余計におかしい。
同意なくできるものじゃないって、いくら急いていたって好きならもう少しくらい、その「好き」が漏れた触れ方になることも同じく知っているはず。
「引っ越しとか、他の男の子とか。好きみたいな言葉で誤魔化さないで。そこから行動が飛びすぎ……」
「飛んだんじゃない。積み重なってたんだ。その頃、既に。でも、子供の俺は、輝に好かれたいよりも輝に認識してほしいの方が強かった。あんな俺を、輝はまだ嫌わないでいてくれたから」
嫌いになんかなれなかった。
好きだったから、悲しかった。
「好きな子には、大人はああするんだって。早く輝より大人にならなきゃ……もう時間ないのに、会えなくなるのにって焦って。他の誰かといる輝を見るのが怖くて、俺どうしても」
――大好きな輝と、大人がすることしておきたかったんだ。