意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
キスで目が覚めたはずなのに、またキスで微睡みに戻る。
「あ……起きてる? ごめんね、俺、乱暴しちゃったよね」
額、瞼、鼻、唇。
順に口づけられて覚醒するどころか、またうとうとする。
「嫉妬しちゃったんだ。輝がしてくれて、すごい嬉しかったのに。嬉しい、幸せから、妬けるに変わるまでがすごくて……本当にごめん」
乱暴なんて言うほど、行為ひとつひとつは酷くない。
優しいし、甘いし――ただものすごく執拗。
「ん……」
平気だよ。
ものすごくダルいけど。
もう一度彼に腕を回すと、いつから開いていたのか、唇の隙間を親指で広げられ、舌がすんなりと侵入する。
「輝に言わせなくても、俺が消していけばいいだけだったね。嫉妬で輝を怖がらせるなんて、進歩ないな、俺。過去は変えられないんだから、気をつけなきゃ」
――他の男を輝の中から消せるのは、現在から未来だけだもんね。
「思い出も大事だし、懐かしいし、昔の輝も可愛いかったけど……今の俺のこと、もっと好きになってもらえるように頑張るね」
これ以上なんて無理なくらい、既に好き。
未だ恥ずかしいほど緩んだ口じゃ、それすら言えない。
「ありがと。輝が好きでいてくれること、ちゃんと伝わってる。俺も大好き。あいしてる……」
覚えたてみたいに繰り返され、もともとなかった起き上がる気力が完全にゼロになった。
「いいよ。ゆっくりしてて。輝が起きるまで待ってる」
それって、つまり……。
「本気でベッド買わなきゃ。あ、それより、もっと広いとこに引っ越すのもありかな」
髪から耳、首筋に肩。指で何往復もしながら、「どっちにしてもいるもんなー。先に新居決めた方がいいね」独り言――ううん、まるで、私の潜在意識に刷り込むようにそんなことを言った。
「さすがに、あの男も結婚したら諦めるでしょ。取引先の既婚社員に言い寄ったなんて、大問題だよね。……輝に寄ってくる時点で、問題だらけだけど……だよな……」
私に話しかけるのとは、少し違う言葉遣い。
そこだけ声が遠くなったのは、気のせい?
「もう何も怖くないよ。安心して休んで。俺の過去が気になるなんて、可愛い嫉妬しなくて大丈夫。元カノなんて存在しないんだもん。俺のどこに、輝以外がいると思う? ……ね、いない。大丈夫……」
それを言うなら、私の中だって、もうどこにも陽太くん以外いない。
物騒なことを考える必要なんて、全然ないのに。
「……だね。知ってても、好きだから気にしちゃうのは俺も一緒」
「休んで」って言ったくせに、撫でていた手が止まり、頬を包まれ。
好きな人が隣に横になっていれば、当然のように自然とそっちへ横向きになっていた身体をゆっくり仰向けに戻したのは。
「不安になったら、いつでも教えて。何度だって伝えるから。輝だけ、こんなに愛してる」
また、真上に陽太くんがいる。
目を閉じてその気配を感じるだけでする、このゾクリは――……。
「………」
溜め息が聞こえ、私の方に傾いた身体がぴったり重なる寸前に陽太くんが離れていく。
何かしてしまったんだろうかと強張ったけど、そういえば前にもあった。
再び脳が麻痺する一歩手前で拾えた、スマホの振動。
「……て、くんなよ。なに……は? 」
音を立てないようにベッドから下りて、キッチンに向かう途中で面倒になったのか、電話に出た彼の声、言葉。
どれも、今まで聞いたなかで一番乱暴で、冷たい。
(……ふつう、だよ)
私に対して甘すぎるだけだ。
これが他の男の子だったら、まったく違和感なんてなかったと思う。怖い、とも思わなかったに違いない。
『……来んなよ。お前、誰』
(……え……)
可愛い声だった、それも。
なのに、今、他の誰かに使った言葉が完璧に一致したのは古い記憶。
封印したと思ってた、あの日よりも。
「あきちゃん」って慕われてた頃よりも更に前――……。
(……どうして忘れてたんだろ)
――陽太くんが引っ越してきた時のこと。