意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
やっぱり、信用できません!!






小柄で可愛い男の子が引っ越してきた。
一人っ子の私は尚更、見たことないくらい整った顔立ちの年下の子の登場に興奮してたと思う。

でも、その子はとても無口で無表情で、年上ぶったただ近所に住んでいるだけの子――人間なんか眼中になかったんだ。

話しかけても返事はない。
にこりとはおろか、真っ直ぐに見つめるだけの目も、ぴくりとも動かない唇も、頬も。
どれを取っても、彼の感情を読み取れる要素は何ひとつなかった。


『ひなたくん……? 』


迷惑がられてるのは分かってた。
だからこそ、心配で。
私以外はみんな、陽太くんに話しかけるのをもう諦めてた。
何の反応もないから、仕方ないかもしれないけど。
でもだからって、他の子みたいに私も諦めるわけにはいかなかった。


『あ、ひな……』


何もない原っぱ。
こんなところにいるなんて、やっぱり一人がいいんだろうか。
でもね、私は――私はひとりって寂しいの知ってるから。
陽太くんには、そんな思いしてほしくないんだよ。


『ひなたくん……!? 』


彼は確かにいた。
でも、ただ突っ立っているのでも、座り込んでるのでもなかった。
何があったのか、側に咲いてる花や雑草、さらさらの土。
全部一緒くたに――踏み荒らされていた。


『やめて……! 』

『なんで? 』


ズキッとした。
もちろん、草花の無惨な姿にも。
でもね、私は――……。


『ひなたくんが、そんなことするのは嫌だ……』


陽太くんのその姿の方が、ずっと可哀想で悲しくて見ていられない。
そんなふうに思う私も、みんなとは違うのかもしれない。


『お花、かわいそう? だからやめてって言ってるの』


陽太くんの言ったとおり、ずっと記憶にあった幼い「ひな」は打算的なものもあったんだと今すごくしっくりきてる。
だって、それよりも前のはずのこのひなたくんは、私よりも大人みたいな喋り方だった。


『ひなたくんに、してほしくないの』


無表情だと思ってた彼が、こんなにも嫌悪感を顕にして。
何の力もない私に見つかっただけで、こうしてやめてくれる。
だから、きっとちゃんとお話しすれば。


『ひなたくんが可哀想だよ。だから、やめよ……? 』


そう、お話ししなくちゃ。
なのに、涙が止まらなかった。
陽太くんがこんなことするには、きっと理由があるんだと思う。
どうして、気がつかなかったんだろう。
無表情なんかじゃない。
泣いてる私を見て驚いた陽太くんは、すごく辛そうで悲しそうで、どこかちょっと嬉しそうだった。


『……あきら……』


(……あ……)


私の名前、覚えててくれたんだ。
ものすごく嬉しくて、涙が少し引っ込んだ。


『おれの為に泣くの……? どうして。嫌われてるって思ってた』

『なんで? 』


そんなに嫌な態度だったかな。
みんなみたいに、気味悪がってるように見えたかな。


『なんでって、だって……』


苦笑。
こんな小さい子に使う表現じゃないかも。
でも、そうとしか言えない笑い方だ。


『あきら……あき、ちゃん』


あ。嬉しいな。
この前、男の子に名前で意地悪されたの、知ってたんだ。


『おれが、こんなことするのはいや……? 』

『……いや。だって、ひなたくん、……』


――泣いてる。

口許は笑ってるのに、泣いてる。


『……ごめん。あきちゃんがそう言うなら、やめる』

『ほんと!? 』


言ってみるものだな。
こんな曖昧な理由じゃ、陽太くんに納得してもらえる自信なかったのに。


『うん。あきちゃんがいてくれるなら、やめる……』

『いるよ……! 』


なんだ、そんなこと。
そんな簡単なことで、陽太くんもお花も救われるのなら、迷うことなんかなかった。
何より、二人なら寂しくない。
意地悪されても平気。


『あきちゃん……』


ああ、わたし。
初めて、この名前好きだって思った。


『……すき。初めてでよく分かんないけど、すき……って言うんだと思う』


告白って、初めてされた。
真っ赤になった私の額に、ちゅってしてくれたのは可愛い。
びっくりしすぎて何も言えない私を見つめる瞳は、意地悪だ。

それに。


『あきちゃん……すき……』


急に少なくなった語彙と、もっと小さいこどもに逆戻りしたみたいな口調。


『一緒にいて』


――やくそく。

一緒にいてくれたら――……。


(いる、から。大好きだから)


ねえ。
もう、何も壊さなくて平気。
壊れなくてへいき、だよ。


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