意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
・・・
ぬくもりの残ったシーツが心地いい。
おかしいな。
陽太くんがぴっとり私の身体に腕を絡めてくっついてないのも、なぜかそれに少し、ほっとしてるのも。
「陽太くん……? 」
でも、目が覚めるにつれ、次第に寂しくなって。
反射的に呼んでから、ゆっくりと起き上がった。
「あ、おはよ。朝ごはん、食べれる? 」
お腹は空いてないけど、パンケーキのいい匂いに重かった胃が楽になってきた。
「ありがとう」
「あー、ううん。これさ、チンするだけのやつだから。失敗して、輝に変なもの食べさせるわけにはいかないから買っといたんだよね」
作ってくれたんだ、って言う前に、ばつが悪そうに白状して、盛ったお皿をテーブルに置く音がする。
「ありがと」
気を遣わなくていいのに。
キッチンまで辿り着いて、目が合った陽太くんはなぜか申し訳なさそうにしてるから。
「俺こそ。朝、いてくれて嬉しい」
背中に頬を寄せると、自然と俯いた視線が自分の足へ。
上だけ彼の服を着て素足が覗くのって、定番というかなんだけど、でもやっぱりドキドキする。
「……着せてくれたの、全然気がつかなかった」
「え、ほんと? 輝、意識あったよ。俺の首にくっついて、ちょっと大変だった」
思い出したのか、くすっと笑われて。
恥ずかしくて、余計正面から見れなくなる。
「輝の服小さくて、甘えたさんに着せるの難しかったから……って名目で、俺のだったんだけど。やっぱ、すごく可愛い。ほら、見せて」
「……順番おかしい……」
「おかしくなーい。輝が起きるまで、じゅうぶん見たから知ってる。でも、俺の服着て、起きて動いてる輝、今朝はまだだもん」
そんなこと言われたら、起きて動くだけで恥ずかしいことしてる気分になる。
それにそんなの、一回おばさんが来た時にも――……。
(……言わないでおこう)
出勤前に、またあんなことが始まるとさすがに困る。
「ん……可愛い」
もともと、まったく入ってなかった力がますます緩んで、陽太くんが振り返って。
寝起きのままの髪をそっと整えると、額にゆっくりキスが落ちてくる。
(……あ……)
何だろう、今の。
すごく大事なことを思い出したみたいな。
身体が記憶していることを、忘れてた脳が反応したような。
「座って。紅茶も用意しといたよ。でも、よく分かんなかったから。今度一緒に買いに行こ」
「うん……」
バターとシロップの香り。
封を切ったばかりのシロップは、わざわざこの為に買ってくれたんだなってくすぐったい。
なのに、ほんの寸前まで覚えてた何かを急に一気に忘れてしまったみたいな、気持ち悪さ。
「もしかして、食欲ない? さっき思ったんだけど、輝、ちょっと熱かった気がする……」
掌を額に当てて、もう一度確めるみたいにおでこをコツンとさせて。
「だ、大丈夫だよ。あったとしても、微熱くらいだと思う」
「中途半端な微熱が辛かったりもしない? 気分悪かったら、無理しないで……」
ふるふると首を振って、ひとくち。
「美味しい」
大丈夫、ちゃんと美味しい。
だから、熱なんて気のせい――きっと、熱ってるだけ。
「よかった。……あ、そうだ。これ聞いたら、元気でるんじゃないかな」
「え? 」
ちっとも心当たりがない私に笑って、優しく頭を撫でてくれて発表されたのは。
――あの変質者、捕まったらしいよ。