意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
ストール、会社に忘れた。
寒くて、膝掛けにしてたから。
どうでもいいことをこんな時に思い出したのは、陽太くんが自分の首から解こうとして泣きそうな顔でやめたから。
「遮ってごめん。輝には当然、飛躍しすぎなのも分かってる。抱きしめるとか、頬とか……せめて、唇だけでよかったじゃないかとか。そのとおりだから」
唇が重なっただけだったら。
もしかしたら、それは初恋になれたかもしれないのに。
「馬鹿で無知すぎたんだ。本当に死ぬほど後悔したんだよ。だって、今の俺は、輝に好かれたくて堪らないから」
――大嫌い。
……でも、ないんだと思う。
私にとって彼は、恐怖でしかない。
憎みよりも何よりも、絶対的な脅威が私の心を支配してた。
「輝に会えて嬉しい。もし再会できて、話すこと許してもらえたらって、何度も想像した」
どうして。
もう忘れてくれたらよかったのに。
今の陽太くんは大人で優しそうで、雰囲気は柔らかくなったとしても、どう見ても男の人だ。私に拘る必要、ないのに。
「輝は、ずっと俺の憧れ。優しくて、しっかりしてて、可愛くて。時々ふっと弱いとこ見えると、早く頼ってもらえるようにならなきゃって思ってた。今まで、他の人と何もなかったとは言えないけど」
別に、そんなの気にしなくていい。
せっかくモテそうなんだから、今度は誰かに私にできなかったことをしてあげたら。
「これが輝だったら……そう思わないこと、なかったよ」
「……最低」
「うん。だから、事前に好きな子いるって言って付き合ったりしたけど、やっぱりお互いダメで……最近はやめたんだ」
風、止んだな。
脳が受け取り拒否して、また何てないことが頭に浮かんだと納得したのに。
「輝に会えたら、今度は絶対優しくするんだって決めてた。今度こそ、愛情表現間違わないように。ちゃんと、好きが伝わるようにしなきゃ……もう二度と、痛いって泣かせないんだって」
『痛いよ……っ』
いつの間にか、陽太くんが風避けになってくれてたんだって気づいたと同時に自分の幼い声が響いて、頭が揺さぶられる。
「輝のこと、忘れたことなんかなかった。輝、変わってない。店に現れたの見て、すごい緊張して……手、震えちゃった。どこか、当たったりしなかった? 」
癖、だって言って。
さりげなく髪を指が滑っていったのも、私じゃなく仕事を思い出したんだって。
「もちろん、もっと綺麗になったし、大人っぽくなってるけど。あ……本当に輝だって。嬉しすぎて、頭真っ白で。会っただけでそうなって、思い知ったよ」
――好きって気持ち、輝にしかあり得ないんだって。