意地悪幼馴染みが優しくなって帰ってきたけど、全然信用できません!!
優しすぎて、別人としか思えません





『聞いてくれてありがとう』


誓ったとおり、最後まで「許して」はなかった。
いっそ言ってくれてたら、何もかも完全に置き去りにできたかもしれないのに。


『気をつけて帰って。輝、すごい目を惹くから……本当だよ』


それで、口説いてるつもり?
まだ夜になりきれてない時間からそんなこと言われると、嘘っぽく感じてしまう。


『輝、本当に綺麗なんだから』


風で乱れた髪を、名残惜しそうに撫でられたのが最後。
次を約束することも、連絡先を聞かれることもなかった。
そのどちらか、言いたそうにして飲み込んだ表情が辛そうだったのに気づかないふりして。


(……いくら、後悔してるって言われても)


年下恐怖症の原因である張本人と、友達になるなんてできるわけない。


「はぁ……」


疲れた。
考えるのに疲れた。

シャワー浴びたところまでは、まだよかった。
明日の準備とか家事を終えると、もう何も考えたくないのにあの顔が頭から消えてくれない。
こんな状態じゃ眠れるわけがないから、電気を消すなんて選択肢にも入らない。


「どうしたの? 」

『あ、輝? あんたねぇ』


――と、母からの突然の電話。
何かあったんじゃ……ヒヤリとしたのを一瞬で打ち消してくれる、何とも暢気な声でほっとする。


「何よ、いきなり」

『ひなくんと話した? 』

「……なんで? 」


まさか、母と接触したんじゃ。
いや、それで陽太くんに何のメリットがあるのか分からないけど。
でも、普段まったく娘の心配とかしてる気配がないお母さんがこんな夜中に電話してくるなんて、偶然とは思えない。


『この前、こっちに来てたのよ。ひなくん……なんて呼んじゃダメね。もうすっごく格好よくなっちゃってびっくり! もともと可愛かったけど、想像以上のイケメンになってるから! あんた、一回見といた方がいいわよ。輝の人生で、もうそんな男の子拝むことないかもしれないし』

「は……? 」


ミーハーな母は、すっかり興奮している。
確かに、可愛かったし格好よく成長してるけど。


「陽太くん……お母さんに会いに来てたの? 」

『そんなわけないじゃない。なんか、懐かしくなって~って言ってたけど、輝に会える可能性に賭けて来たに決まってるでしょ。一人暮らししてるって言ったら、そうですよねって言いながら、残念そうだったもの』


ひとまず、それで安心した。
まさか、お母さんまで巻き込んでたら最悪だ。だって。


『陽太くん遠慮してたけど、輝の電話番号、押しつけちゃった。お母さんに感謝して』


(……母っっっ……! )


「人の番号、勝手に教えないでよ……」

『そりゃ、他人だったらそうだけど。陽太くんだからいいじゃない。あんなに仲良かったんだし。全然浮いた話のひとつも欠片すらない年頃の娘の為に、お母さん頑張ったんだから褒めてよね』


(お母さん、陽太くん大好きだからな……もう、最悪……)


「もう疎遠なんだってば。お互い大人になって変わって……」

『疎遠を選んだのは輝でしょ。今の時代、連絡なんてどうとだって取れるのに。……どんな喧嘩したんだか知らないけど、もういいじゃない? 輝の言うとおり、二人とも大人。陽太くん、可哀想よ。輝を怖がらせたくないから、ってなかなか番号受け取ろうとしなくて』

「…………」


そう、選んだの。
絶対に、もう顔も見ないで声も聞かないで済む方を。


『で! ねっ!!』


(……嫌な予感)


『お母さん、陽太くんの番号も聞いちゃった!それも輝の意思が……ってすごく困ってたけど、じゃあ、おばさんに教えて~って。すごいでしょ。母って娘の為に何でもできるのよね。はい、言うから控えて! 』

「…………あー、はいはい。メモは……」

『してないでしょ。ちゃんと書き取って』

「……共有しといてくれ」

「たって、連絡しないでしょ。ほら、早く」


母の愛は残念ながらよく分からないけど、母親の勘がすごいのは分かった。
この後攻防が続いたけど、結局私は彼の番号を保存する羽目になる。


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