零度の華 Ⅲ



『亜紀、行くぞ』


黙っていた亜紀にそう言うと、「お待ちください」と止められた

あたしは着替えた服を紙袋の中に入れていると、亜紀は持ってきたもう一つの紙袋をあたしに渡してきた


「これもしてください」


『何だ?』


「変装道具です。今、外では警察が検問をしています。引っかかりでもしたらまたムショ行きですよ。今度は逃げられないかもしれないですね」


紙袋の中身を見てみると、ウィッグにカラコン、化粧道具まで入っていた


『流石だな』

そう言って紙袋の中身を使って変装の準備をする

変装をしながら亜紀に話しかける



『わざわざ、変装の用意までする必要はなかったんじゃないのか?あたしがもう一度ムショに戻り、死刑になればお前は自由だろ?』


「着替えだけした貴女と一緒に居れば、検問をしている警察に見つかり、確実に私までも捕まります。そっちの方が一番嫌ですよ」


確かに、そうなるくらいならとことん隠すよな



単純なことに気づかなかったあたしは馬鹿だなと思いながら、化粧をしていき、全くの別人とまではいかないができるだけあたしという存在を薄めた


あたしの化粧が終わると亜紀は「行きましょうか」と腰を上げてドアへと歩み始める

あたしもそれに続いて歩くと後ろから怒りの声が飛んでくる




「おい、俺に何もなしか?」


振り返れば緑は眉間にシワを寄せている



『助かった。また、来る』


「一生、来るな」


あたしは緑の言葉を聞き流し返事することなく、ドアを開けて外へと足を踏み出した


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