零度の華 Ⅲ
「…もしもし」
疑うように放たれた声は初めて会った時に聴いた声と同じだ
『あたしだ』
「どちら様ですか?」
『声だけで分かると思ったんだが、言わなければ分からないか?亜紀』
「…」
返事が返ってこない
嘘か本当か
あたしが生きて戻ってきたことに動揺が隠せないのか
確かに簡単に信じられることではないな
「鍵の番号、覚えていますか?」
鍵…あぁ、倉庫の鍵のことか
『2431』
「本当に戻ってきたんですね」
倉庫の鍵の番号を信じるための材料とするには、あまりにも薄い内容でしかないが、亜紀にとっては今はそれが精一杯の材料なのだろう
『あたしは有言実行する人間だ』
「貴女は凄いですね」
『それより、明日午前8時に緑‐リュィ‐のところまで迎えに来てくれ。着替えを持って来てくれよ?今のままじゃ外に出られないからな』
「戻ってきた早々、私を使いますね。昔と変わりませんね」
『変わっている。あたしは一度死んでいるからな』
「一度、死んでいる?そのわりには態度が大きいですね。…まぁ、別に構いませんよ」
では明日、そう言って亜紀は電話を切る
携帯電話を緑に返し、この部屋を出ようとする