零度の華 Ⅲ
『着替えは持ってきたか?』
「勿論です」
亜紀は手に持っていた紙袋をあたしに渡す
その中身は5年前に買っていた服が入っていた
亜紀はあたしの物をこの5年間、捨てずにとって置いたのか
あたしは今着ている服を、亜紀や緑がいるこの部屋の中で脱ぎ始めると緑に止められた
「おい、何してる」
『見れば分かるだろ。着替えてるんだ』
「俺達がいるんだぞ?」
『だから何だ?あたしの体を見たって損も得もしないだろ』
「目が腐れるっていう損しかねーな」
言いたい放題言ってくれる
帰ってきても、いや帰ってきたからこそ嫌味は増すものか
わざわざ別の部屋まで行って着替えるのは面倒だと思うあたしは、着替えたらすぐにでも出て行くと思いながら緑の言葉を無視して着替えを再開させる
1枚脱ぐとキャミソールとなり、亜紀から受け取った服を着る
緑達に背を向けて着替えをしていたため、必然的にキャミソールから少し見える背中の傷に、緑が反応した
「お前、その傷どうしたんだ?」
あれほど見られたくないと、誰かに見られることを拒んでいた背中の傷
今でも見られていいものではないが、前ほど嫌悪感を抱くことはない
一生、消えることのない傷は未だに心にも残ったままだ
『殺し屋に傷の1つや2つあるのは不思議な事ではないだろ?どうしたか、なんて分かり切った答えを求めてもお前に利益はないはずだ』
振り返り、緑の目を見て言う
『くだらないことを聞くな』
その後、緑は何も言ってこなかったので、ジーパンをはき着替えを完了させた