『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
「本当にいいの?」
「はい」

明日になったらパパに連絡して「お金は用意できない」と伝えよう。
それでも困ったらママに相談しよう。
きっと怒られるだろうけれど、その方がいい。

「無理強いはできないね」
「すみません」

「そうするとこのお金はどうしたものかな」
お金の入った封筒を見つめる敬さんは、困った顔をしている。

「何か、あるんですか?」
どうやら事情がありそう。

「実は、これは大学時代に借りていた奨学金の返済用に用意したお金なんだ」
「奨学金?」
「うん」

それって、大学の学費として借りるお金。
卒業した後に働いて返すんだって聞いたことがある。

「俺は小さいころに母を病気で亡くしていて、父も病気で入院していて、高校生の頃からずっと一人で暮らしてきたんだ」
「へー」

意外だな。
そんな苦労人には見えない。

「バイトをしながら高校に行って私大の医学部に受かったけれど、何しろ授業料が高くて奨学金を借りて何とか卒業した」
「ふーん」

でも、それならお金はいくらあっても困らない。
奨学金って言う借金があるならなおさら余っているお金なんてないはず。

「それが、最近になっては母のお兄さんって人が現れて、俺の奨学金を肩代わりするなんて言い出した」
「お母さんのお兄さんってことは、敬さんのおじさん?」
「うん。3年前に初めて会った唯一の親戚。駆け落ちして家を出た母に苦労をさせたことを後悔しているのか、今になって俺に援助を申し出てきた」
「それで、敬さんはどうしたの?」

敬さんの目の前に突然現れたおじさんって人が、ママの再婚相手であるおじさんと重なって、聞いてしまった。

「そうだなあ、できれば頼りたくはない」

やっぱり。
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