『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
今でも俺とおじさんの関係を知っている人間は多くない。
院長と、直属の上司である救命部長と、あとはおじさんと個人的に付き合いのある数人の人だけ。
俺自身も病院では『副院長』と呼ぶし、さすがにおじさんも言って回るようなことはしない。

「でもなあ・・・」

まだ真理愛が眠ったままのベットからそっと起き出してキッチンへ向かった俺は、水を取り出そうと冷蔵庫を開けた。

はぁー。
今日二回目のため息。

冷蔵庫の中には、一人暮らしの男の家とは思えないほどの食材とタッパに詰まった料理が並んでいる。

「あーぁ、また増えているし」

不規則な仕事をしていていつ家に帰れるかもわからないし帰っても寝るだけなのに、こんなにたくさんの料理が食べ切れるわけはない。
どうせ腐らせるだけだからといくら言っても、おじさんは聞いてはくれない。
だからと言って文句を言えば、「もっと早く帰れるようにしてくれ」って部長に言われそうで、あまり強いことも言えない。

「ったく、こんなことならおばさんにスペアキーなんて預けるんじゃなかった」

こっちに越してきた頃、「一人暮らしでは家事も大変だろうから、時々掃除に行ってあげるわ」と言われたのを信じて鍵を預けたのが間違いだった。
ただあの時は、親切で言ってくれているのを強く拒絶することもできなかったし、もともと『部屋は余っているんだから我が家に住めばいい』と言われた提案を断るには頷くしかなかった。


「うわー、すごい」
「え?」
いきなり背後から声が聞こえ、驚いて振り返った。

そこには、ベットの上で眠っているはずの真理愛がいた。
< 36 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop