『お願いだから側にいて』～寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い～

「お金がないとパパが困るんだよ。少しでもいいんだが、用意してくれないか？」

気持ち悪いくらい穏やかな口調で、男性は私を説得にかかっている。
パパは何か言いたそうにしながら、それでも何も言わない。
その様子から、きっと弱みを握られていて言いたくても口出しができないんだろうと理解した。

「これ以上のお金はありません」
私が断ればパパが困るとわかっていて、それでもはっきりと答えた。

「へえー良い度胸じゃねえか」
凄みをきかせ、チンピラ風の男性が私に顔を近づける。

「やめろっ」
それまで動こうとしなかったパパが、チンピラの腕をつかんだ。

マズイな。喧嘩になったら困るのに。
心配した私だったけれど、チンピラがパパの腕を振り払い、
バンッ。
突き飛ばされたパパがドアに背をぶつけて、廊下に座り込んだ。

「やめて」
私は慌ててパパに駆け寄った。

「お嬢ちゃん、5万でも１０万でもいいんだ。用意してもらえないか？」
苦しそうに顔をしかめるパパと私を、スーツ姿の男性が上から見下ろしている。

この人は、いざとなれば何のためらいもなくパパや私に危害を加えるだろう。
冷静そうな顔をして眼光だけやたらと鋭い男性を見ながら、この時初めて身の危険を感じていた。