『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
「ママ、おなかすいた」
まだ小さい私が言っても、
「あら、ママはおなかすいてないのよ」
それで終わり。

ママがカフェをやっていたから食べることに苦労はしなかったが、世話をしてもらった記憶はない。
だからかな、季節が変わるようにママの彼氏が変わっても私は気にすることもなくいつも冷静な目で見ていた。

「今度の休み、どこか旅行に行こうと思うんだけれど・・・」
「いいじゃない。行って来れば」
そう言って私は何度もママを送り出した。

私の覚えているだけでも、ママの彼氏は何人いただろうか?
見た目がよくて一見優しそうなお金持ちの男性がママの好み。
社長さんだったり、弁護士だったり、ホストだったり、本当に色んな人がいた。
ただ共通して言えるのは、関係が長く続くことはなかったってこと。

昨日まで仲良くしていたのにって思っていたら、いきなり大泣きして酔っぱらって大騒ぎ。数日間は部屋に閉じこもり出て来ないママをただ待つしかない私は「あぁあ、また別れたんだ」とすぐにわかった。

物心ついた時から、私はそうやって生きてきた。

「頑張ったんだな、真理愛」
頭の上から敬さんの声が降ってきた。

家の前の路上で、車の陰になっているとはいえ抱き合っている私たち。
もし人に見つかればどんな噂を立てられるかわかったものじゃない。
それがわかっていても、私は敬さんから離れることができなかった。

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