『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
「ママはいつまでもい女なの。母として私のことを考えるよりも自分の幸せを願っているし、そもそも誰かのためになんて考えられない人なのよ」

敬さんの胸に顔を埋め、不思議と本音が出てしまった。

「それでも、生きていてくれるってありがたいことだぞ」
ぽそりとつぶやかれた言葉。

そうか、敬さんのお母さんは小さいころに亡くなったんだった。

でも、でもね、

「私がまだ小学生だった時、ちょうど年末の忙しい時で、クリスマスパーティーや忘年会でママのいない日が続いていたの。そのこと自体珍しいことではなかったし、私はただ『今年もひとりなのね』って、思っていたわ」

そう。
1人で過ごすクリスマスもお正月もいつものことだった。
けれど、その日はとっても体調が悪くて、頭が痛くて熱があって、動くのもつらくて布団から出られなかった。
いつもなら一人で病院へ行くんだけれど、それもおっくうでじっとしていた。
きっとそれがいけなかったんだろうと思う。
そのうち意識がもうろうとしてきて、身動きできなくなってしまった。
もちろん、ママに電話した。
でもママにはつながらず、そのうちに指を動かすのもつらくなった。

「生まれて初めて、私はこのまま死ぬのかもって思ったわ」

トン。トン。
と背中を叩きながら、ウンウント頷いている敬さん。

後になって『ネグレスト』って言葉を知った。
きっと、当時は私もママも病んでいた。

< 64 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop