Loves only you
そして現在、神宮寺は、その後継者たる地位に、なんらの傷もつくことなく、専務となった。さすがに本社に戻ってからはおとなしくしてはいるようだが、ゆえにその容姿と爽やかな言動、そして出自から、女子社員の人気は高い。


そんな男が、会社の将来を決める大切なプロジェクトのリーダ-になった。彼の立場からすれば、ある意味当然かもしれない。だが関西時代の彼の所業を知り、逆に東京に戻って来てからはいい意味でも悪い意味でもおとなしく、あまり目立たないで来た神宮寺が、自身の発案でこのプロジェクトを立ち上げたと聞いて、滝は不安を抱いた。


1つは彼の能力、もう1つは彼の悪癖、つまり異性にだらしのないところだ。プロジェクト立ち上げに当たって、神宮寺は何人かの人物を名指しで指名したという。そしてその中に友紀がいたらしい。人事部は今の店舗開発室の状況から難色を示したそうだが、神宮寺は譲らず、自ら室長の村田を訪れ、彼女の異動を承諾させてしまった。滝が反対しても、まさに後の祭りであった。


(あの男が杉浦の能力を純粋に評価して、彼女を引き抜こうとしたのなら、それはそれで仕方がない。だが、前回のプレゼン以前に神宮寺が杉浦を知っていた可能性は低い。そのプレゼンで彼女の才能を見抜いたのかもしれないが、あの男にそんな人を見る目があるとは、到底思えない。だとしたら・・・。)


そんなこんなと思いを馳せていた滝の耳に


「あの・・・おひとりですか?」


という声が聞こえて来る。聞き覚えのあるその声に、ハッと振り向いた滝は思わず、息を呑んだ。


そこに立っていたのは、友紀だった。どちらかと言えば、健全な優等生タイプの友紀が、今はこの場の雰囲気がそう見せるのか、艶然とした微笑みをたたえているのを見て、滝は正直、動揺した。


「ああ。」


ようやくそう答えた滝に


「隣、よろしいですか?」


友紀は意識してるのか、ちょっと大人の女の雰囲気で尋ねる。


「もちろん。」


滝の答えに、またニッコリと微笑み、友紀は滝の隣に座る。


「綺麗ですね。」


「・・・ああ、いい夜景だ。」


お前の方が綺麗だ、思わずそんなベタなセリフを口走りそうになって、滝は慌ててその言葉を飲み込む。


「こんな夜景をひとりで眺めてるなんて、寂しいですね。」


「ひとりだからいいのさ。」


「でもよかった。」


「えっ?」


「本当に次長がひとりで。」


その友紀の言葉のあと、2人は顔を見合わせた。
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