Loves only you
こうして、車上の人となった2人。過去に仕事で、このように一緒に移動したことはあるが、プライベートでは、もちろん初めて。


(これ、完全にドライブ、だよね・・・。)


滝の助手席、それもプライベ-トカ-のそれに座っているという、全く予期せぬ現実に、友紀の胸は急激に高まって来る。


何か話さなきゃ、でも何を話せばいいの・・・?さっきまで滝と会いたくて、話したくて、血相を変えて探していたはずなのに、いざこうやって2人だけの空間に放り込まれると、言葉が出て来ない。


横の滝をそっと伺ってみる。普段からあまり口数の多い方ではないが、今もただ黙々とハンドルを握っているだけ。だが、その表情は仕事場とは別人のように穏やかであり、楽しそうでもあった。


(でも・・・?)


友紀はふと思う。滝はどこに向かって、車を走らせているのだろう?送って行く、滝はさっき、確かにそう言った。でも今、車が進んでいる方向は、友紀の地元であり、滝の実家がある街とは違うような気がする。


「お台場、行こうぜ。」


「えっ?」


唐突に滝が言った。


「嫌か、俺と行くの?」


「そんなことありません。」


友紀は首をブンブン横に振る。


「じゃ、そういうことで。」


ハンドルを握っているから、友紀の方を全く見ずに、滝は言う。


「これはもう100%デート・・・ですよ、次長。」


とうとう友紀は口にする。


「俺は最初からそのつもりだが。嫌か?」


「だから、嫌じゃありません。」


「俺も嫌じゃない。」


その滝の答えに、友紀はハッとする。


「だったらノ-プロブレムだな。」


そう言った滝は楽しそうに笑った。そして、車はやがて海浜公園の駐車場に滑り込む。降り立った2人は黙って、でも並んで歩き出す。やがて目にも鮮やかにライトアップされたレインボ-ブリッジが、2人の視界に飛び込んで来る。


「久しぶりだなぁ。何年ぶりだ?こんな所に、それも女性連れで来るなんて。」


そう言った滝の声が、本当に明るくて、友紀は思わず、その横顔を見つめる。


「1年前、いや1ヶ月前の自分に『今度お前、可愛い彼女連れて、お台場に行くことになるぜ』って言っても、絶対に信じないだろうなぁ。」


しみじみとした口調で滝は言うが


(可愛い彼女って・・・。)


彼の言葉に、激しく動揺する友紀は、とても穏やかな心境ではいられない。
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