Loves only you
翌朝、友紀が出勤すると、滝は既にデスクに居た。


「おはようございます、次長。本日は私は、どのようにすればよろしいでしょうか?」


彼の前に立ち、一礼して尋ねた友紀に対し


「特に用はない、従来の仕事を続けていろ。」


滝は挨拶を返すでなく、見ていた書類から目も離さず、ぶっきらぼうに答える。


(なに、それ・・・。)


滝に付けという室長の指示だから、お伺いを立てたのに顔も見ずに「用はない」と言い捨てられては、友紀も立つ瀬がない。さすがに何か言ってやろうかと思ったら


「高木は、既婚者か・・・。」


ポツリと呟くような滝の声が聞こえて来て


「はぁ?」


友紀は思わず問い返すように言った。その声にハッと顔を上げた滝は


「なんだ、まだいたのか。サッサと席に着け。」


そう言うと、また書類に目を落とした。その態度にもはや、文句を言う気も失せて、友紀は自席に向かった。


「おはよう。いきなり朝から、やられたね。」


隣の席の葉那が声を掛けて来る。


「おはようございます、一体何なんでしょうね。」


ため息交じりに挨拶を返す友紀。そんなことをコソコソ話してる間に、始業のチャイムが鳴る。朝礼では、滝からは特に発言はなく、もっぱら新井室長が話していたが


「最後になりますが、高木さんは今日から3日間、有給休暇でお休みになります。では、本日もよろしくお願いします。」


と締めて、各人は仕事を始める。


「高木さん、どうかしたんですか?」


友紀が尋ねると


「昨日はこっちもいろいろあったのよ。詳しくはお昼にね。」


葉那は意味深に笑った。


そして昼休み、待ちかねたように友紀を誘って、社員食堂に降りた葉那は、席に着くや、食べるのも忘れて、話し出した。


「昨日、高木さんと次長、相当激しくバトったのよ。」


「えっ、そうなんですか?」


「高木さん、昨日はとにかく、ずっとご機嫌斜めで。」


「そりゃそうですよね・・・。」


「昼間も室長に食ってかかってたんだけど、室長は『滝に任せている。』の一点張りでさ。だから、次長が帰って来た途端、ものすごい勢いで嚙み付いたんだよ。『どうだったの、あら捜しの成果は?』って。」


「タメ口ですか?」


「タメ口もタメ口。高木さん、次長をあんた呼ばわりだからね。次長の方は冷静に応対してたけど、言ってることは結構きつかったよ。」


思い出して、苦笑いを浮かべる葉那。
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