Loves only you
滝の言葉に、村田は少し考えるような仕種の後


「わかった。とりあえず、店舗開発室は生まれ変わったんだ。君たちはその先頭に立つぐらいのつもりでやってくれ。」


こう言って面談を締めようとした村田が、ふと思い立ったように


「ところで杉浦さん、まさかとは思うが、君は大丈夫なんだろうね?」


と友紀に尋ねて来た。一瞬、意味が分からず、戸惑っていると


「杉浦は私の見る限り、そんな女性じゃないと思います。それに室長、今のご質問はプライバシ-に関わります。不適切だと思いますが。」


滝が釘を刺すように言う。これにはいささか慌てたように


「いや、これは私としたことが、とんだ失言だった。杉浦さん、許してくれ。」


村田は頭を下げる。ここで友紀は、自分が不倫をしてないか聞かれたのだと、ようやく気付いた。


「いえ。では失礼します。」


さすがに腹が立ったが、グッと堪えて一礼すると、友紀は席を立った。


「なんなんすか?あのおっさん。」


部屋を出ると、漆原も吐き捨てるように言ったが、友紀は黙っていた。すると遅れて、滝が出て来たから


「次長。」


友紀は呼び止めた。


「なんだ?」


例によって、面倒臭そうに振り向いた滝に


「ありがとうございました。」


友紀は頭を下げた。


「なんだ、急に?」


訝し気な滝に


「さっき私を信頼していると、おっしゃっていただきました。」


「えっ?」


「嬉しかったです。」


友紀はそう言って、本当に嬉しそうに顔をほころばせた。


「俺のことも庇ってくださいましたよね、ありがとうございました。」


漆原にも頭を下げられ、やや焦った表情を浮かべた滝だったが、すぐその表情を消すと


「ああでも言わなきゃ、いつまで経っても、この不毛な面接が終わりそうもなかったからな。それだけのことだ。」


と言い捨てるように言うと、そそくさと2人から離れて行った。その姿をなんとも言えない気持ちで見送っている友紀の耳に


「あの人、ひょっとしたらツンデレの気があるのかなぁ・・・?」


漆原の声が入って来る。滝とツンデレという言葉が、あまりにも自分の中ではミスマッチで、友紀は思わず吹き出していた。
< 37 / 136 >

この作品をシェア

pagetop