Loves only you
「今更、あなたの前に顔を出せる立場じゃないことはわかってる。だけど、あなたがこっちに戻って来てるって聞いたら、居ても立ってもいられなくなってしまって・・・。」


明奈と呼ばれた女性は、申し訳なさそうにそう言うが、滝は複雑な表情を浮かべて、彼女の顔をただ見つめるだけ。


「どうしても、もう1度、雅也に会って、ちゃんと謝りたかった。転勤先を訪ねようかと何回も思ったけど、それは止めておけってみんなに言われたから・・・。」


「・・・。」


「雅也・・・本当にごめんなさい。」


何の反応も示さない滝に、明奈は深々と頭を下げた。


「私は・・・許されないことをした。雅也を裏切って、傷付けてしまった。あの頃の私は・・・本当にどうかしてた。なんであんなことをしてしまったのか、自分で自分がわからないの。」


「・・・。」


「一時の気の迷いから、私はかけがえのない大切なものを失ってしまった。後悔してるの、心から・・・雅也、ごめんなさい。」


目に涙を浮かべて、謝罪をする明奈の姿を、滝はじっと見つめていたが


「もう、いいよ。」


ポツンと言った。


「えっ?」


驚いたように聞き返す明奈に


「もう・・・終わったことだ。」


滝は絞り出すような声で言う。


「雅也・・・。」


「君が後悔してるというなら、それでいい。過ちを2度と繰り返すことなく、生きて行ってくれれば、俺はもうそれでいい。」


「・・・。」


「君の謝罪は確かに受け取ったよ。だからもう・・・お互い、前を向いて歩き出そう。」


「雅也、私・・・。」


「時はもう戻すことは出来ないんだよ、明奈。」


何かを言い募ろうとする明奈を遮るように、滝は強い口調でそう言う。その勢いに圧されたように、明奈は口をつぐむ。


「それじゃ。」


そう言って歩き出す滝を


「雅也、待って!」


明奈は引き留めようと声を掛けるか、彼は振り向こうとはしなかった。


(俺たちはもう元には戻れないんだ。だから・・・これ以上、俺の心をかき乱すの止めてくれ!)


背中に感じる明奈の視線を振り切るように、滝はその歩みを早めていた。
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