Loves only you
「紀藤、起きてたのか・・・。」


「私の質問に答えて。雅也くんはどこに行くの?」


まるで詰問するような明奈の口調に、ややたじろぎながら


「いや、ちょっと外の風に当たって来ようかと・・・。」


雅也が答えると


「なんで?」


と畳み掛けるように明奈は言う。


「なんでって・・・。」


答えに困る雅也に


「雅也くんは私に全然興味がないんだね・・・。」


明奈はそう言うとため息をつく。


「紀藤・・・。」


「気が付かない?」


「えっ?」


「私、あなたのこと、さっきからずっと『雅也くん』って呼んでるんだけど。」


その言葉に、雅也はハッと明奈の顔を見る。


「こんなこと、自分の口から言うと、何言ってんだって呆れられちゃうだろうけど、私、結構いろんな男子からお誘い受けてるの。でも今まで、誰一人、2人きりで出掛けた人なんていないよ。たった一人の人を除いて。」


「・・・。」


「私なりに随分アピ-ルして来たつもりなんだけど・・・でもその人は全然、私に振り向いてくれなくて。自分では、それなりにモテる女のつもりでいたけど、実は全然そんなことないんだなってずっと落ち込んでて・・・。それを見るに見かねた友達から勇気をもらって、協力してもらって、一世一代の勝負に出たんだけど・・・結果はますます自分がみじめになるだけだった。」


そう言った明奈の目に光るものを見て、雅也は胸をつかれる。


「帰るね。今日は迷惑掛けて、ごめんね・・・滝くん。」


そう言って、ベッドから降り立った明奈は


「おやすみなさい。」


と泣き笑いの顔で言うと、ドアに向かって歩き出した。


「いや、ちょっと待ってよ、紀藤。」


それを見て、慌てて呼び止める雅也。


「ちょっと本当に待って。頭の整理がつかないんだよ・・・。」


そう言って、一つ大きく息をした雅也は


「要するに紀藤は、わざと酔った振りして、この部屋に来たってこと?」


「そんなこと・・・改めて確認しないでよ。」


そう言いながら、顔を背ける明奈。その仕草は怒っているようにも恥ずかしがっているようにも見えた。


「それってつまり・・・。」


「そうだよ、私は雅也くんのことが好きなの!」


雅也に視線を戻して、勇気を振り絞ったように言った明奈は、今度は間違いなく恥ずかしそうに俯いた。
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